第10話

9
1,046
2018/08/04 01:27
私が5歳の時、両親が離婚してから、父の泰弘とは離れて暮らしてきた
泰弘は時々、東京に来て私に会ったりもしていたけど、離れいるとやっぱり親子の関係性も薄まるというか、私はいまだに泰弘のことをよく知らない
翻訳家として家で仕事をしているらしいとか、四回も結婚した母とは違い、十年間どうやらずっと独りだったらしいとか
その程度だ
それから、よく知らないけど、どうやら実の娘の私のことは無条件で好きでいてくれるらしいとか
その父のことでもう一つ衝撃的なことを知ったのは、クリスマスが近づいた夜のことだった
私は泰弘と、近所のスーパーへ買い物に行った
食料品を入れたカゴを泰弘がレジに持って行き、私は手作りケーキのためのイチゴを選んで、後から父のところへ行った
すると、泰弘が、目尻をさげ、すごく嬉しそうな様子で、レジを打つ女の店員さんと話しているではないか
店員さんがレジを打ちながら泰弘に言った
流星の母(由香里)
今日はいつもと違いますね
泰弘
あはは、そうなんです
今日ちょっと奮発しちゃって
あの、ちょっと今日は、娘が一緒で
私は不審に思いながらも、イチゴのパックを泰弘に見せた
あなた

お父さん、イチゴもいい?

泰弘
ああ!いいよ、いいよ、いいよ!
いや、三回も連呼しなくても
どうも様子がおかしい
泰弘はいそいそとイチゴのパックを店員さんに渡しながら、上ずった声を上げた
泰弘
はいはい、じゃあ、これもお願いします
あ!あなたちゃん、この人ね、流星くんのお母さんだよ
ええっ!?私は驚き、目を見張って、まじまじと彼女を見た
あなた

流星の………?そうなんですね?

彼女は私を見つめて、にっこりと笑う
流星の母(由香里)
いつもお世話になってます
あなたちゃん、本当に可愛いですね
泰弘がさらにデレっとした顔になる
泰弘
でしょうでしょう、僕の娘ですから、えへへ、あはははは
流星の母(由香里)
二人で買い物だなんて、いいなぁ
驚きを隠せず、私は、泰弘と流星の母を交互に見る
化粧っ気がほとんどないのに、すごく綺麗な人だ
楚々として、目元が優しくて、ほっそりとしている
ずっと離れて暮らしていた泰弘について、この日、新たに知ったこと
どうやらこの人、恋をしている
しかも相手は、あろう事か流星のお母さん
このエロ親父がっ!
と心の中で罵倒してみたけれど、もちろん、それでふてくされるほど子供ではない
ずっと独りだったお父さんだもの、恋愛のひとつくらいしたっていいはずだ
でも、ねぇ
なんでよりによって、流星のお母さん?
そこだけが、どうにも引っかかる私だった
なぜなら、この時すでに、流星は私にとって、気になる男の子になってしまっていたからだ

プリ小説オーディオドラマ