第35話

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2018/08/22 17:00
休日にもかかわらず、路面電車は空いていた
私は他の数人の乗客たちの中、ひとりぽつんと座っていた
あたし、どこ行けばいい?
ミニコンサートの会場で、突然、ひとりぼっちの迷子になったような気がした
気づけばひとりで路面電車に乗っていた
足は、そのまま、大晦日の夜に望と一緒に行った旭山の丘へと向かった
あの時とは季節が大きく違う
雪ではなく、五月の、眩しいほどの新緑に覆われている
丘をずっと登って来たために汗をかいていたが、涼やかな風が下から吹き付けてきて、私の頬や髪にあたる
私は前と同じように、パッセのポーズをとり、踊り始めた
今回は、見ている人などいない
ひとりきりだ
それでもバレエの舞台の"主役"になりきって、私は踊る
手足を大きく動かす度に、高く飛び上がる度に、風を感じた
木々を揺らす風の音を音楽にして、私は踊り続けた
ねえお母さん
普段は忘れている母のことを、こんな時に限って思い出す
お母さんは、恋することで新しい自分になれるって言ったよね
でも、やっぱりあたしには難しいみたい

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