第37話

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2018/08/22 17:43
翌日、いつものように揃って登校した私と流星は、階段を上がってゆく望に気づき声をかけた
あなた

おはよう!

憂鬱そうな顔の望とは反対に、ふたりはにこにこしながら、望の隣に並んだ
望は鬱陶しそうにこちらを見る
小瀧望
おまえらなんだか、楽しそうだな
私はふふっと笑う
あなた

望だって、でしょ?

小瀧望
あ?
あくまで雪音とのことは、とぼけるつもりらしい
そんな望はふと流星を見つめ、
小瀧望
ババアのことなんかどうでもいいから、普通に家に来いよ
ぶっきらぼうな口調で言うと、先に歩き始める
すると流星は、望の背中に飛びつき、ぎゅうっと抱きつくようにした
藤井流星
のーぞーむちゃん
小瀧望
うわ、バカよせ
藤井流星
僕のためにママと喧嘩しないでね
小瀧望
下りろ!気持ちわりーから!
藤井流星
のーぞーむちゃあん
小瀧望
下りろって!
私は嬉しくて、黙ってそんな二人を見守る
仲直りできて本当に良かった
やっぱりこのふたりは、こうでなくちゃならない
これできっと、クラスにも、平和な空気が戻ってくる
その日の放課後、私は一枚のプリントを机に置き、重いため息をついていた
『進路希望』のプリントなのだが、すべてが空欄になっているのだ
そこへ、雪音が軽い足取りで入って来た
青木雪音
お待たせー
私は顔をあげて彼女を見る
あなた

どうだった?

雪音は、迷いのない口調で答える
青木雪音
うん。地元の調理師の専門学校にするよ
私は感心して頷く
あなた

そうなんだ……雪音って将来のこと考えてたんだね

青木雪音
まぁ料理するの好きだしね
確かに、雪音の趣味は料理だ
お弁当は毎日自分で作っているらしいが、なかなか凝っていて美味しそうだし、調理実習の時は誰よりも手際がよく、出来もいい
青木雪音
あなたも好きなことやればいいっしょ?
あなた

好きなこと……

私はプリントを見て、ますます落ち込む
それが特にないから苦労している
本当に
いったい自分には何ができるんだろう?
何が好きで、どういった道に進みたいんだろう?
プリントを前に悶々としていると、その横に、雪音がばしっとなんかのパンフレットを置いた
青木雪音
その前に、これ!夏休み、みんなでキャンプに行かない?
あなた

キャンプ?

確かにパンフレットには『サマーキャンプ』と書かれている
青く輝く湖や、湖畔のロッジ、バーベキューの写真がレイアウトされている
青木雪音
そ!キャンプ!二学期始まったら受験モードでどこにも行けなくなるだろうから、夏休みに行っちゃおうよ、ね!
楽しそうな企画だが、雪音は望と付き合うようになったばかりなのに、私を誘ったりしてもいいのだろうか
私は遠慮がちに聞いてみた
あなた

いいけどさ。望と二人きりじゃなくていいの?

すると、雪音はがくっとうなだれた
青木雪音
あたしはね、やっと付き合えるようになったわけ。なのにさあ、望のやつ、流星流星流星ってさ。彼女と流星どっちが大切だっつうの
私は思わず、はははっと笑った
確かに……その状況は想像できる
流星は私と泰弘という新たな家族ができ、遙先生と両思いにもなれた
望は、そんな流星といい意味での距離が取れるようになったとは思うが、相変わらず流星のことが大好きだ
雪音は身を乗り出すようにして言う
青木雪音
ね!だから!遙先生も呼んでさ!そしたら流星は遙先生といられるし、望も私と一緒に……
雪音はそこで、はっとしたように私を見た
青木雪音
……でもそっか。そうなったらあなたひとりか
あなた

あたし?

雪音はふと真剣な顔で私を見つめる
青木雪音
うん……ねえあなたさ。誰か紹介しようか?
私は驚き、目を瞬いた
あなた

え?

青木雪音
そうだよ、あなたも彼氏作りなよ!受験だって彼氏いた方ががんばれるし!そうしようよ!ね!
そんな彼氏なんて作ろうと思って出来るものじゃあ……私はそう思ったが、雪音の押しの強さに圧倒され、反射的に小さく頷いたのだった

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