翌日、いつものように揃って登校した私と流星は、階段を上がってゆく望に気づき声をかけた
憂鬱そうな顔の望とは反対に、ふたりはにこにこしながら、望の隣に並んだ
望は鬱陶しそうにこちらを見る
私はふふっと笑う
あくまで雪音とのことは、とぼけるつもりらしい
そんな望はふと流星を見つめ、
ぶっきらぼうな口調で言うと、先に歩き始める
すると流星は、望の背中に飛びつき、ぎゅうっと抱きつくようにした
私は嬉しくて、黙ってそんな二人を見守る
仲直りできて本当に良かった
やっぱりこのふたりは、こうでなくちゃならない
これできっと、クラスにも、平和な空気が戻ってくる
その日の放課後、私は一枚のプリントを机に置き、重いため息をついていた
『進路希望』のプリントなのだが、すべてが空欄になっているのだ
そこへ、雪音が軽い足取りで入って来た
私は顔をあげて彼女を見る
雪音は、迷いのない口調で答える
私は感心して頷く
確かに、雪音の趣味は料理だ
お弁当は毎日自分で作っているらしいが、なかなか凝っていて美味しそうだし、調理実習の時は誰よりも手際がよく、出来もいい
私はプリントを見て、ますます落ち込む
それが特にないから苦労している
本当に
いったい自分には何ができるんだろう?
何が好きで、どういった道に進みたいんだろう?
プリントを前に悶々としていると、その横に、雪音がばしっとなんかのパンフレットを置いた
確かにパンフレットには『サマーキャンプ』と書かれている
青く輝く湖や、湖畔のロッジ、バーベキューの写真がレイアウトされている
楽しそうな企画だが、雪音は望と付き合うようになったばかりなのに、私を誘ったりしてもいいのだろうか
私は遠慮がちに聞いてみた
すると、雪音はがくっとうなだれた
私は思わず、はははっと笑った
確かに……その状況は想像できる
流星は私と泰弘という新たな家族ができ、遙先生と両思いにもなれた
望は、そんな流星といい意味での距離が取れるようになったとは思うが、相変わらず流星のことが大好きだ
雪音は身を乗り出すようにして言う
雪音はそこで、はっとしたように私を見た
雪音はふと真剣な顔で私を見つめる
私は驚き、目を瞬いた
そんな彼氏なんて作ろうと思って出来るものじゃあ……私はそう思ったが、雪音の押しの強さに圧倒され、反射的に小さく頷いたのだった
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。