第32話

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2018/08/19 18:02
音楽室から流れてくるのは、優しいピアノの調べ
私は廊下に佇んでしばらくその音に耳をすませていたが、音が止んだので、ノックをしてからドアを開けた
あなた

ちょっといいですか

楽譜を片付けていた遙が顔をあげる
私はぺこりと頭を下げた
すると遙が、柔らかく笑って、チラシのようなものを私に差し出した
『ハマナス会 第五回ピアノミニコンサート』と書いてある
五月の末に、小さなホールで開催されるらしい
あなた

コンサートですか?

遙はさらりと答える
小瀧遙
そんなに大きなものじゃないんだけどね。望と流星のことも呼んでいるのよ。あの子たち、まだ仲直りしてないんでしょ
私は黙り込んだ
(だろうな。俺には遙ちゃんがついてくるからな)
(とっくに気づいてると思ってた)
そうなのか
流星はこの人が好きなのか
小さな時からずっと一緒の、流星の"遙ちゃん"
俺たちの歴史をなめるなよ、と望は言ったけれど、それなら、流星とこの人の間にも、私が知らない歴史がある
思い切って聞いてしまいたい
小瀧遙
どうかした?
小首を傾げるようにして聞く遙を、私は真っ直ぐに見つめた
あなた

せ、先生は……好きな人いますか?

遙は黙ったまま、瞬きもせず私を見つめ返す
唇は微笑んだまま、でも、その瞳は薄く膜を張ったようで、決して笑ってはいない
あなた

あの……

遙はにっこりと笑った
小瀧遙
私ね、今度お見合いをするの
あなた

え?

小瀧遙
その人に決めたわけじゃないけど。候補はたくさんいて、その人がダメなら、また次、また次って。私、頑張るわ
そんな
それなら、流星はどうするの?
遙はにこやかに笑ったまま、
小瀧遙
はい、ガールズトークはおしまい。コンサート、観に来てね
と言った

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