第9話

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2018/08/03 21:16
その日は調理実習があって、女子は家庭科室でクッキーを作った
みんな色とりどりのエプロンや三角巾をつけ、和気あいあいとクッキー作りを楽しんでいる
雪音が特に上手で、さすがに女子力が高い
ハート型のクッキーに、ピンクや黄色のアイシングを施し、文字まで入れて、普通にお店で売っているような出来映えだ
真緒や愛永がすごーいと褒めていた
私は、ひとり、ぼうっとしてしまい、いつまでもボールの中身をかき混ぜていた
朝の、トイレでの衝撃的なやり取りが忘れられなかったし、そこに、過去の嫌な記憶が混ざって、不安な気持ちでいっぱいだった
そんな私の様子に、雪音が気づいた
青木雪音
あなた、聞いてる?
私は我に返った
雪音がいつものように、にこにこ笑って私を見ている
青木雪音
どうかしたの?
あなた

あ、ごめん何の話だっけ?

青木雪音
クリスマス、みんなでカラオケ行こうかって
来るっしょ?
私はパッと顔を輝かせた
あなた

うん!行く!

青木雪音
よし、じゃあ後で予約しよ!
あなた

うん!

楽しみだねぇ、と真緒や愛永も笑っている
私は、再びクッキーを作り始めた雪音たちを見つめ、考える
平気だ
知らない子たちに囲まれて、好き放題言われて、ちょっと気持ちがざわついただけ
ここは、東京じゃないんだから
雪音はクッキーにアイシングで綺麗な飾りを描いている
ほかのクッキーと同様に、可愛らしく完成した
青木雪音
出来たっ。クリスマスツリー
新しい友達はみんなこんなに優しいし、楽しい
そうだよね?
私は彼女達に分からないように、そっと息を吐いた

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