先輩の私に対する態度に、ずっと抱いていた違和感。
それを伝えると、先輩は目に見えてうろたえ始めた。
目は泳ぎ、顔は青ざめていく。
図星だったのかもしれないけれど、なんだか可哀想にも思えてきた。
先輩は頷いてお茶を一口飲み、気持ちを落ち着けるように深呼吸する。
私もせっかくだからとお茶をもらって、もう一度話を切り出した。
先輩はまた一口お茶を飲むと、姿勢を正した。
けれど、まだ目や手の動きがぎくしゃくしている。
どうやら演技を止めたようだ。
薄々そうじゃないかとは予想はしていた。
先輩自身の言葉で言われてみると、やっぱり嬉しいものだ。
毛穴から汗が噴き出していたのも、演技だというのか。
信じられないし、心配して損だったと、私は非難の目で先輩を見つめた。
先輩は深々と頭を下げた。
胸の奥が熱くなって、心臓が強く脈打つ。
この人の気持ちに、少しでも応えたいと思ってしまう。
でも、私も先輩も、互いのことなんかまだこれっぽっちも理解できていない。
私は首を横に振った。
先輩が素で話してくれることは、大きな一歩だった。
私はもっと、先輩を知ってみたい。
先輩は、少し苦い顔をした。
芸能界を引退した理由も知らないし、言うべきではなかったのかもしれない。
私には想像もできない苦労を、先輩はたくさんしてきたのだろう。
毎日穏やかに過ごせればそれでいいと思っていた私には、眩しい存在だ。
私が笑いかけると、先輩は切なげに目を細めて、「ありがとう」と答えた。
【第14話へつづく】
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。