あれから、俺は友梨佳を避けるようになった。
あんなに追いかけ回して、清にはストーカー呼ばわりされていたくせに、なんて自分勝手だろうとは思う。
友梨佳から【会えませんか?】とチャットのメッセージが来ても、ぐっと我慢した。
【校内だと人の目があるから、会わないようにしよう】と伝えて、チャットのやりとりだけにしている。
しかし、そんなやせ我慢も長くは続かない。
【先輩、私のこと避けてますよね?
このままだと先輩と話せるまで私がストーカーになりますが、いいですか?】
怒りを含んだメッセージが急に飛んできて、俺は震え上がった。
いや、怒って当然だ。
降参した俺は、放課後に家の畑で友梨佳と会うことにした。
***
友梨佳はいつだって核心を突く質問をする。
さすが、俺が惚れた女の子だ。
そういう人の心の機微に聡いところも、俺は好きなのだろう。
俺が頷くと、友梨佳は花を咲かせたように笑って喜んだ。
寂しがってくれないということは、友梨佳はやっぱり、あの白藤とかいう男と付き合うことになったのだろう。
友梨佳は一瞬で真顔になったかと思いきや、その目には涙が浮かんでいた。
目の前で、友梨佳がぼろぼろと泣き出してしまった。
泣き止ませたいが、この前のことがあるので抱きしめるのは躊躇してしまう。
迷った末に、俺はそっと友梨佳の頭を撫でた。
何のキャラの真似でもない。俺が、そうしたいと思ったから。
泣き止むのを待って、恐る恐る抱きしめようとすると、彼女の方から飛びついてくる。
友梨佳相手に演技している時は一切緊張しなかったのに、今は心臓が暴れ回っている。
嬉しくて、胸の奥がぎゅーっとなる。
力いっぱい友梨佳を抱きしめると、彼女も負けじと抱きしめ返してくれた。
そんな夢も、友梨佳とだったら本当に叶えられる気がする。
高校で一緒に過ごせる時間は残り少ないし、離れる時間も増えるけれど、その先はこれからの俺たち次第だ。
友梨佳は目を赤くして言う。
きっと、不安なのだ。
俺は友梨佳の手を取って、絶対に離さないという意志を込めて握った。
演技をせずに気持ちを伝えるのは、やっぱりまだ慣れない。
それでも友梨佳は満面の笑みを浮かべて、俺の手を握り返した。
芽が出始めたばかりの春の畑に、俺たちの笑い声が明るく響いた。
【完】
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!