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第10話

会いたすぎて幻聴が聞こえる/Side.廉
桃原友梨佳と出会って、約一ヶ月が過ぎた。


しかし、彼女と話せたのは、ほんの僅か。


仮病を使って公園で過ごしたとき、どうしてもっと自分を売り込んでおかなかったのか。


現実の恋とは、こんなにもうまくいかないものなのか。
黒崎 廉
黒崎 廉
(みんな、恋人なんて割と簡単に作ってるんだと思ってた……)

清が部活のミーティングに呼び出されてしまい、今日の昼休みは暇だ。


屋上でひなたぼっこをして寝転んでいると、母から電話がかかってきた。


ドラマ撮影のために地方でロケ中だったと思うが、一体何の用だろう。
黒崎 廉
黒崎 廉
はい、もしもし
黒崎佐夜子
黒崎佐夜子
『廉、元気にしてる? お父さんとお母さんも元気?』
黒崎 廉
黒崎 廉
ああ、元気だよ

俺と一緒に住んでいる祖父母――つまり母にとっては両親のことも、母はいつも気に掛けている。


祖父母には世話になっているが、俺だって家の手伝いをしているし、迷惑はかけていないはずだ。
黒崎佐夜子
黒崎佐夜子
『それならよかった。
大事な話があって、電話しとこうと思ったのよ』
黒崎 廉
黒崎 廉
大事な話?
黒崎佐夜子
黒崎佐夜子
『今撮影で滝本たきもと監督にお世話になってるの。
それで、廉のことも気になってるらしくてね。
高校卒業後に、映画の主演で再デビューしないかって話があるの。
【ノワール】って小説が原作の作品なんだけどね』
黒崎 廉
黒崎 廉
……断って

滝本監督は、親子共々、長年世話になった監督だ。


演技指導も厳しいし、言葉も容赦ないが、良い作品を作るためには妥協しない素晴らしい人でもある。


一緒に仕事ができたことは光栄に思うが、今は受けるわけにはいかない。
黒崎佐夜子
黒崎佐夜子
『そんな……すぐには断れないのよ。
ちょっと考えるくらいはしてみて?』
黒崎 廉
黒崎 廉
…………

母が困るのも分かるが、急に芸能界を引退した手前、そんなのこのこと戻るなんて無理だ。


演技は好きだし、また演じたいという思いは、今でも持っている。


それでも――売れっ子になればなるほど仕事が増えて、体調を崩し、親しい友達もいなくて、年相応の生活が送れなくなるよりは、今の方がいい。


両親だって、そんな俺を心配して、引退を勧めてきたのだから。



***



あれから母は「返事は保留!」と言って譲らず、一度俺を説得しに帰ってくることになった。
黒崎 廉
黒崎 廉
はあ……友梨佳に会いたい……

今日の放課後は祖父母の畑を手伝うことになっているので、友梨佳に会いに行くことはできない。
黒崎 廉
黒崎 廉
(まあ、会いに行っても避けられるんだろうけど)

会いたい思いを我慢しつつ、母の実家である自宅に戻った。


黒崎家は田舎の中でもそれなりに歴史ある家系らしく、農作業用の土地をいくつも持っている。


父は母に惚れ込んで交際を申し込み、母は父が婿養子になってくれることを条件に結婚したと聞いた。


俺の姓が黒崎なのも、そういう理由だ。
祖母
祖母
おお、廉。
おかえり~
黒崎 廉
黒崎 廉
ばあちゃん、ただいま
祖母
祖母
じいちゃんがあっちにおるから、手伝ってくれる?
黒崎 廉
黒崎 廉
分かった

着替えて畑に出ると、腰を曲げて仕事をしていた祖母がにこにこと話しかけてきた。


祖父母はとてもいい人で、芸能人だった俺のことも、今の俺のことも受け入れてくれる。
祖父
祖父
廉、この袋が重くて持ち上がらんのよ。
そっち側、持ってくれんか~
黒崎 廉
黒崎 廉
はいはい、今行くよ!
祖父
祖父
ばあちゃんと二人じゃやりきらんから、助かるわ
祖母
祖母
ほんと、優しくて家族思いで、自慢の孫じゃけん
黒崎 廉
黒崎 廉
世話になってるんだから、これくらいやるよ

この家は、とても居心地がいい。


農業の勉強をして、この仕事を継ぐのもありかもしれないと最近は思っている。


今日はニラの苗植えをする日だ。


祖父母の分まで俺がやってやる、と気合いを入れつつ、地道に苗を植えていると、道路脇から俺を呼ぶ声がした。
桃原 友梨佳
桃原 友梨佳
黒崎先輩!

友梨佳の可愛らしい声のように聞こえて一瞬動きを止めたものの、俺はすぐに作業を再開した。


彼女がこんなところにいるはずがないからだ。
黒崎 廉
黒崎 廉
(まさかな……。会いたすぎて幻聴が聞こえる)

念のため頭を上げて声のした方を見ると――。
黒崎 廉
黒崎 廉
はぁ!?

清と、その後輩らしき女子と、桃原友梨佳が――いた。


【第11話へつづく】