桃原友梨佳の関心を引くにはどうすればいいか、図書館を出てからしばらく考えていた。
俺の一番の武器は何か、それを考えて出した結論は――。
校門から少し離れたところで待機し、彼女が出てきたのを確認してから、帰る方向に先回りするというもの。
接触する口実さえ作ってしまえば、あとは〝演技〟でどうにでもなる。
彼女の肩を借りて公園内まで移動した俺は、木陰になっているベンチで休むことにした。
寝転がろうとした俺を止めて、彼女は鞄を探る。
ちょうどいいものが見つからなかったのか、彼女は逡巡した後、ベンチに座った。
ハンカチを自分の膝の上に広げ、「どうぞ」と言う。
嬉しさで頬が緩みそうになるのを堪えながら、俺は遠慮なく彼女の膝の上に頭を乗せて横になった。
胃が痛む演技を添えて。
本気で心配している彼女に申し訳ない気持ちはあるが、これでも幼少期には何度も胃潰瘍を経験している。
原因は度重なる仕事のストレスと、多忙により休息が得られなかったこと。
その時のことを思い出すと、本当に痛くなってきそうだった。
弱々しく答えると、彼女は俺を労るように微笑んだ。
優しく純粋な笑顔に、心が洗われるようだ。
さっき図書館で初めて彼女を見た時、例えようのない不思議な衝動に駆られたのは、気のせいなんかじゃない。
彼女を知りたい、彼女に近づきたい。
俺の人を見る目に狂いはないはずだ。
まさか、俺の人生で一目惚れを経験する日が来ようとは。
もしかすると、彼女の家にはテレビがないのだろうか。
それとも、テレビの向こうの世界にいた人間が、こんなところにいるなんて思いもよらないのか。
俺が両親の名前を出しても、彼女は分からないようだった。
母は女優で、父親はミュージシャン。
街中で聞けば誰しも「聞いたことがある」「知ってる」と答えるし、そういう人たちはもちろん俺のことも知っている。
ということは、彼女は芸能界に相当疎いのだ。
つまり、俺が〝元・芸能人〟であるという強みは、彼女を口説くにあたって何の役にも立たない。
少し自信がなくなってしまった。
だが、今までだって数え切れないほどの女子から告白されてきたのだ。
彼女だって、例外ではないはず――きっと大丈夫。
元・演技派子役の名にかけて、どんなキャラにだって、なりきってみせる。
もちろん、彼女が好きな男にだって。
【第5話へつづく】
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。