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2021/09/30

第8話

す、ストーカー!?/Side.廉
あれから、俺は様子がおかしい。


頭のネジが一本吹っ飛んだロボットみたいに、奇妙な行動をとっていると自覚している。


桃原友梨佳に近づきたくて、家の手伝いがない日は毎日図書館に通っているし、帰り道で待ち伏せしたり、どこかですれ違うかも、と校舎内をふらふら歩いたり。


読書感想文は自力で書いて再提出したし、授業も真面目に受けて課題も忘れず提出している。


生活態度を改めたことで、担任に褒められるどころか「黒崎、何かあったのか……?」と心配される始末。


彼女の好みが分からないうちは、優等生も演じられるように完璧にしておかなければ。


女の子の名前を呼ぶなんて演技以外ではなかったものだから、桃原友梨佳のこともどう呼べば良いか分からない。
黒崎 廉
黒崎 廉
(桃原……いや、友梨佳か? ここは硬派に桃原さんといくべきか……)

どんなキャラなら、彼女は俺を気に入ってくれるだろうか。


それを探るために、俺は彼女に出会う度、様々なキャラを演じながら迫っている。


ある日は――。
黒崎 廉
黒崎 廉
友梨佳、ここで会える気がしていたんだ。
ふっ、今日も可愛いな
桃原 友梨佳
桃原 友梨佳
ひぇっ……
黒崎 廉
黒崎 廉
そう怯えるな。
俺は優しいからな……

また別の日は――。
黒崎 廉
黒崎 廉
桃原さん、借りたい本があるので調べていただきたいのですが……
桃原 友梨佳
桃原 友梨佳
は、はい……。
先輩、今日は眼鏡なんですね……?
黒崎 廉
黒崎 廉
ええ、度は入ってませんが

そして別の日は――。
黒崎 廉
黒崎 廉
はあ……死にたい……。
俺なんかが生きてても誰も必要としてくれない……
桃原 友梨佳
桃原 友梨佳
ど、どどどうしたんですか!?
そんなこと言わないでください!
黒崎 廉
黒崎 廉
君が僕を必要だって言ってくれれば、それだけでいいのに……

俺の脳内には、これまで見てきたいくつもの恋愛映画やドラマが、膨大なデータベースとして詰め込まれている。


最近のヒット作から、二十年以上前の名作まで。


あらゆる恋愛作品のヒーローの言動を、俺は片っ端から真似していた。


そうすれば、いつかは彼女好みのキャラが見つかるだろうと思ってのこと。


彼女の反応が悪ければ、翌日には別のキャラを演じる。


過去に〝憑依型〟〝カメレオン俳優〟と評されていたほど、俺は役を馴染ませるのが上手いらしい。


その反動か、演技をしていない俺は、ただの空っぽでつまらない人間になってしまった。
黒崎 廉
黒崎 廉
好きなんだ……真理まり
あっ、違う、友梨佳
桃原 友梨佳
桃原 友梨佳
だ、誰と間違えてるんですか!?
もしかして、他の女の子たちをこうして口説きに……
黒崎 廉
黒崎 廉
いや、前に見た映画のヒロインが、友梨佳に似てて。
ちょっと間違えただけだ。
決して他の女の子を口説いてなんかない
桃原 友梨佳
桃原 友梨佳
……先輩、毎日別人みたいで、ちょっと怖いです
黒崎 廉
黒崎 廉
えっ?
桃原 友梨佳
桃原 友梨佳
あの、正直迷惑なので、これ以上は勘弁してください!

彼女は目をぎゅっとつむって頭を下げ、走って逃げていった。


包丁で心臓を刺されたかと思った。


彼女は俺にときめくどころか、迷惑していたらしい。
黒崎 廉
黒崎 廉
はあ……マジか……

俺はその場にしゃがみ込んで、前髪をくしゃくしゃにかき上げた。



***



以来、彼女は俺を見つけると苦笑いをし、軽く挨拶を交わすだけで、すぐ逃げるようになってしまった。
黒崎 廉
黒崎 廉
ちょっとだけ、話がしたいんだ
桃原 友梨佳
桃原 友梨佳
私は何も話すことはありません……!

図書館に行っても、書架整理がどうとか言って、俺の目の前から消えてしまう。
白藤 築
白藤 築
あの……。
あまりしつこいと、本気で嫌われますよ
黒崎 廉
黒崎 廉
関係ないやつは黙ってろよ
白藤 築
白藤 築
桃原さんと先輩のためを思って、言ってるんですけど

最近、彼女の近くには大抵この男がいる。


俺が彼女に声を掛ける前に、邪魔をされるほどだ。
黒崎 廉
黒崎 廉
(こいつ絶対腹黒い……。いつも笑ってるけど目が笑ってねえし。お前は友梨佳の何なんだよ)

結局、あれからずっと、俺は彼女と話せないままだ。



***



八方塞がり――そんな状態を恋愛において俺が経験することになろうとは。
黒崎 廉
黒崎 廉
どうしたらいいんだ……
茶山 清
茶山 清
あはは。
なんだ、そんなに落ち込んで。
例の一年生の子とうまくいってないのか?

ある日の昼休み。


落ち込んでいた俺を励まそうと、清が話を聞いてくれた。


あれこれ事情を話すと、笑っていた清の顔が次第に青ざめていく。
茶山 清
茶山 清
ちょ、ちょっと待て廉。
あのな……。
それストーカーだからな? 危うく犯罪だぞ?
黒崎 廉
黒崎 廉
す、ストーカー!? 俺が……?
茶山 清
茶山 清
逃げられてもそんだけしつこく追いかけてりゃな……。
相手がどんなイケメンで有名人でも、そりゃ嫌だと思う

肝が冷えた。


彼女は、そんな苦行にずっと耐えていたのか。


清は呆れたようにもう一度笑った。
茶山 清
茶山 清
まあ、それだけ恋愛に疎かったお前が、ひとりの女の子に振り向いてもらおうと頑張ってるんだもんな
黒崎 廉
黒崎 廉
……もう間違いなく嫌われた
茶山 清
茶山 清
嫌われたかどうかは分からねえよ。
お前が恋愛に関してはとことん不器用なだけで
黒崎 廉
黒崎 廉
でも、逃げるってそういうことだろ
茶山 清
茶山 清
そりゃ、毎日別人みたいなのが迫ってくれば恐怖が勝つよ……。
なまじ演技力が高いのがあだになったな

清はうーんと唸りながら、真剣に解決策を考えてくれている。


本当に、人間の出来たやつだ。
茶山 清
茶山 清
その、桃原って子。
俺の吹奏楽部の後輩の灰谷と仲がいいんだ。
ゆっくり話をさせてもらえるよう、俺から灰谷経由で頼んでやる
黒崎 廉
黒崎 廉
……いいのか?
茶山 清
茶山 清
まあな。
恋愛のことに、当事者以外はあんまり口出しすべきじゃないけど……。
廉のことを知ってもらわないうちに終わるのは、やっぱもったいない
黒崎 廉
黒崎 廉
……ありがとう、清
茶山 清
茶山 清
ああ。
だから、もうストーカーはするな。
これ以上はガチで嫌われる可能性が高い
黒崎 廉
黒崎 廉
分かった

藁をも掴む気持ちで、俺は清の提案に甘えることにした。


しかし、彼女には一体どんなキャラで接するのが正解なのか。


それは謎のままだ。


【第9話へつづく】