友梨佳とのデートはこの上なく楽しい時間だった。
あれから数日後。
試験結果が出揃い、放課後の時間を使って進路について話し合う三者面談期間が始まった。
撮影中だったはずの母が学校に駆けつけ、放課後とはいえさっきから学校内が騒がしくなっている。
大女優を前にして、担任もタジタジだ。
これが、芸能人を目の前にした一般人の反応だろう。
大学進学で話を進めるってことになっていたはずなのに。
ここにきて、母が勝手に言い出してしまった。
担任にそう聞かれると、嘘をついてまで否定するのも馬鹿らしくなってきた。
今までだって、再デビューの話はあちこちの事務所からひっきりなしにきていた。
でも、やっと人間らしい生活を送れて喜んでいた俺は、ずっと断り続けていたのだ。
***
面談が終わり、母は俺の心境の変化を喜びながら帰って行った。
俺はすぐに下校する気分になれず、非常階段のところで風に当たりながらぼんやりしている。
頭に浮かぶのは、デート中に見た友梨佳の笑顔。
俳優の道に復帰すれば、今の俺の演技を見て、きっと友梨佳は喜んでくれる。
けれど、友梨佳に会って、一緒に過ごす時間はめっきり減ってしまう。
そうグルグル頭の中で考えていると、背中をぽんと叩かれた。
振り返ると、友梨佳が珍しくいたずらっ子のような笑顔を浮かべていた。
人差し指を口に当ててお願いする姿も可愛くて、頬が緩む。
どうしようもなく愛おしく感じて、俺は友梨佳を思わず抱きしめてしまった。
【第17話へつづく】
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。