黒崎先輩が教室から去った後、私は亜季ちゃんに彼の話を聞いていた。
元芸能人だったと聞いて、驚きで口があんぐりと開いている。
先輩の自分を知っているだろうという自信満々な態度に、ようやく合点がいった。
まさか、先輩の両親も芸能界の大御所だとは。
でも、雲の上の存在というか、元々興味がなかった世界の人だから、近くにいてもあまり実感がわかない。
あんな高価なものをぽんと買える財力も、元芸能人なら理解できる。
彼にとっては、あれが普通だったのかもしれない。
亜季ちゃんの言葉にほっとして笑いながらも、次に先輩に会った時が気まずい。
どう接するのが正解なのだろうか。
自分の席に戻ると、隣の席にいる白藤くんがこっちを見た。
私には、亜季ちゃんや白藤くんという心強い味方がいる。
それに、先輩とは大して関わりもないのだから、後ろめたいこともない。
私が自分を鼓舞するように笑うと、白藤くんも穏やかに微笑む。
けれど、彼は何か言いたいことをぐっと飲み込んだような目をしていた。
白藤くんにもう一度話しかけようとしたところで、担任の先生が入ってくる。
点呼が始まる中、私は一昨日の先輩とさっきの先輩の様子を思い出していた。
一昨日は上から目線で言葉遣いも荒くて、さっきはすごく爽やかで好青年な感じ。
更に言えば、最初に本を探しに図書館に入ってきた時は、なんだか気怠そうでぼーっとしていた。
黒崎先輩は、一体どんな人なのだろう。
私の中で、彼に対する興味が次第に強くなってきていた。
【第8話へつづく】
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。