あの白藤とかいう男と、友梨佳を二人きりにしてしまったことが気になって、俺は静かに戻って来た。
そこで、白藤が友梨佳に告白しているところを聞いてしまった。
若手の人気俳優が恋愛ドラマで披露するように甘く、それでいて真剣な告白に、「負けた」と心の底から感じる。
過ぎたことを悔いても仕方がない。
しかも、友梨佳はずっとあいつを頼りにしていたようだし、俺よりも白藤を選ぶ可能性は充分ある。
友梨佳の返事を聞くのが怖くなり、俺は二人に気付かれないよう、再び足音を忍ばせながら逃げた。
誰もいない教室を見つけて内側から鍵を掛け、ひとりむせび泣く。
ドラマと違って現実はいつだって自分が主役のはずなのに、どうして上手くいかないのだろう。
情けなくて、悔しくて、虚しくなる。
さっき、白藤と友梨佳の間に割って入ってでも邪魔をするべきだったのではないか。
かつての自分なら、演じることで簡単にそれができたのではないか。
生まれてはじめての本気の恋なのに、あと一歩の勇気が出せない俺は最高にダサかった。
***
数日後。
俺は母親に連れられて、とある撮影現場に行った。
以前世話になった滝本監督と、事務所関係者に挨拶するためだ。
あれから再デビューの話をもう一度考え直し、受けることに決めた。
両親は大喜びだったし、新しく所属する事務所も仕事の詰め込みはしないと約束してくれた。
高校卒業後は、すぐに上京して撮影に入る予定だ。
友梨佳への気持ちを一旦断ち切り、まずは人間として成長しようと、俺は腹をくくったのだ。
清にも報告すべきだと思い、学校に来て一番に言った。
喜んで賛成してくれると思っていたが、清は納得がいってなさそうだ。
清は両肩をすくめ、呆れたように大きく溜め息をついた。
俺の知る限り、清がこんな態度をとったのは初めてだ。
軽く突き放すような感じで清は言って、怒ったように教室を出て行った。
あれだけ親身になって協力してくれたというのに、当の本人がこれじゃ、怒りたくもなるだろう。
自信がないのはどうしようもない。
その自信をつけるために、俺は恋心を捨てて、夢を追いかける。
それが本末転倒のようにも思えて、馬鹿な自分を呪ってやりたい気分だった。
【第19話へつづく】
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!