私は、無心で雑巾を手に取り、床を拭き始めた。
4月、中学校に入って、7月の今までずっと 笑ったことなんてなかった。
4軍だから。
この学校のスクールカーストは、1軍2軍3軍まで
そんな大差はない。
3軍に親友をもつ1軍だっている。
けど、4軍...4軍だけが他より大きな差を
つけられていた。
4軍だけが、苦しんでいる。
ガラッ
突然、教室の扉が開いた。
私はあまりに突然のことだったので、肩をびくっと
揺らした。
そして、ゆっくりと扉の方に視線を向ける。
______谷崎桜だ。
1軍の親友をもつ3軍の女子。
本当、恵まれてるよね。あんた。
私は谷崎桜を見た後、また無心で床を拭き始めた。
突然、谷崎桜が誰かに話しかけた。
クラスメイトが私を見て笑っている。
でも、いつもと違う。嘲笑ってない。
谷崎桜はそう言って、私の持っている雑巾を
指差した。
どうして?どうして、3軍の人が...
谷崎桜の親友、つまり、女王...
谷崎桜は苦笑した。
夢じゃ、ない...?
私、今、目の前に“親友”がいる?
中学に入ってからずっと欲しかった親友が、今
できるかもしれない...
私は、目を丸くしてクラスメイトを見ていた。
何もかも突然のことで、驚いていたが、一番驚いた
のが...
クラスメイトが微笑んでいる、ということだ。
私に向かって、優しく笑っている。
その瞬間、私に光が差した気がした。
谷崎桜は、授業の時にあった作文発表で
「苦しんでいる誰かに少しでも光をあげられたら
私は少しでも良い大人になれる。」
そんなことを言っていた。
その時は「たかが綺麗事、」なんて思っていた。
けど、この人は、谷崎桜は、本当の綺麗な事に
したんだ。
この人は、凄い。
私がそう言うと、谷崎桜は私の頬を摘まんだ。
桜は笑った。
この時から私は、桜の笑顔が好きになった。
私の心を、光で満たした素敵なものだから.....。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。