第8話

孤児
370
2019/03/09 13:03
谷崎 桜
やっほー!瞳!
休日。

家のインターフォンが鳴ったので、家を出ると
門の前に桜が立っていた。
栗原 瞳
え、桜?
谷崎 桜
うん!桜だよぉー!
桜はそう言って、ひゃっひゃと笑う。

...桜の笑うつぼはどこにあるんだろう。
谷崎 桜
今日、遊べるー?
え、急に...

でも、中学に入って友達とかと遊ばなかったから
なんか凄くうずうずする。
栗原 瞳
私で良ければ...
谷崎 桜
本当!?やったぁ!
桜は飛び跳ねながら笑った。

それが何だか微笑ましくて、私はふふっと笑った。

桜はそんな私を見て、嬉しそうに歩き出した。
谷崎 桜
じゃ、行こ!
「うん。行こう。」

その言葉の代わりに、少しだけ口角を上げる。






















栗原 瞳
...え、遊ぶって、ここ?
谷崎 桜
うん!
栗原 瞳
ここって...
────施設。

親のいない子供たちが集団で過ごす場所だ。
谷崎 桜
鮎川あゆかわさん!
桜の目線の先には、一人の女性__桜の様子だと恐らく“鮎川さん”__がいた。
鮎川さん
あら、桜ちゃん。久しぶりね。
笑顔が素敵な若い女性だ。
谷崎 桜
お久しぶりです!
すると、施設の中から小さな子供たちが出てきた。
子供
あ!桜おねーちゃん!
子供
あれー?となりのおねーさんは?
谷崎 桜
あっ、紹介するね!
谷崎 桜
私の親友、瞳お姉ちゃんだよ!
桜がそう言ったので、私はペコリとお辞儀をする。
鮎川さん
あら、いつの間に?
子供
ひとみおねーちゃん!
子供
あーそーぼー!
栗原 瞳
え?あ、遊ぶ?
子供
うん!
子供たちは、私に期待の目を向けた。

...これを断れる人はいないだろうな。
栗原 瞳
良いよ。遊ぼ。
私は微笑む。
子供
やったぁ!
谷崎 桜
何して遊ぶー?
桜は姿勢を低くしてにっこり笑った。
子供
うーんとね、かけっこ!
谷崎 桜
おー!良いね!
鮎川さん
お取り込み中悪いけど、私は
幼児たちの世話をしなきゃいけない
から、子供たち頼める?
谷崎 桜
あっ、はい!任せてください!
桜がそう言うと、鮎川さんはにっこり笑ってから
施設へ入っていった。

















あれから、私と桜は子供たちと思いっ切り遊んだ。


そして今は、昼寝の時間。

子供たちは施設の中で眠りに付いていた。
栗原 瞳
ねぇ、桜。
私は眠りに付く子供たちの横で、小さめな声で
桜に話しかけた。
谷崎 桜
ん?
栗原 瞳
この子たちは...さ、
谷崎 桜
うん。
栗原 瞳
皆、親がいないんだよね...?
谷崎 桜
....うん。
栗原 瞳
凄く、楽しそうにしてるけどさ、
栗原 瞳
本当は辛いんだよね。きっと。
栗原 瞳
なんか、凄いよね。
栗原 瞳
まだこんなに小さいのに...
すると、桜が私の手の上に自分の手を置いた。
栗原 瞳
え...?
谷崎 桜
私も、そう思う。
谷崎 桜
きっとさ、皆、私たちより
大人なんだよ。
谷崎 桜
私だったら、こんな笑えないよ。
谷崎 桜
毎日、毎日、泣いちゃうかも。
桜は悲しそうに笑う。

この時私は、

「ああ、だから桜は私をここに連れてきたんだ。」

と確信した。
谷崎 桜
皆が、幸せになれたら...
───────どんなに嬉しいだろうか。


きっと、桜はそう言いたかった。

けど、言えなかった。


綺麗事だと気付いたから。
栗原 瞳
うん。私もそう思うよ。
私がそう言うと、桜は微笑んだ。

...悲しみが残ったままの、笑顔で。
栗原 瞳
桜は綺麗事を、本当の綺麗な事に
できる人だから。
栗原 瞳
きっと、桜ならできる。皆を幸せに。
桜は目を見開いた。

そしてその顔は、みるみるうちに素敵な笑顔に
変わった。
谷崎 桜
...うん。ありがと。




本当に、できると思った。







この時だけは、ね──────────────






















クラスメイト
うっわ。後輩かわいそっ。
クラスメイト
ね、本当。
クラスの掲示板に載った写真を見て
クラスメイトは口々に暴言を吐く。
斎藤 春美
何..これ...
廣中 円香
一体誰が...
私だよ。

なんて、言うと思ったか。
永野 百合
春美。円香。
永野百合。ついこの間、4軍に落とした人だ。
斎藤 春美
何?
廣中 円香
何か用?
永野 百合
いや、別に。
永野 百合
ただ、言いたくって。




















『4軍へ、ようこそ。』

















永野百合はにっこりと笑った。



















「皆が、幸せになれたら...」



















ねぇ、桜。
























そんなの、無理だよ。

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