第13話

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2019/04/02 15:07
栗原 瞳
...
私は道を歩いた。

けど、体に穴がぽっかり開いて上手く歩けない。

何も考えられない。


今の私は《無》だった。
























どこまで歩いただろうか。

崖の下には海が見える。
栗原 瞳
...綺麗な海。
私は足を止めた。

そして、崖の先へと足を運ぶ。






ヒュー!






突然、崖の上に突風が吹いた。


そして私は、体勢を崩す。




















私は呟いた。






『ああ、やっと死ねるんだ。』



























???
死なせない。
誰かが、私の腕を引っ張った。

私は崖の上でへたり込み、“私を助けてしまった人”を見上げる。
栗原 瞳
あ...
見たことがあった。

裏路地で後輩を助けた、桐島先生の...
???
お前、渚と和人の生徒だよな?
???
何で死にたいんだ?
その人は、私の前でしゃがんだ。
栗原 瞳
....分からない。
私は俯く。
???
そうか...
???
まあ取り敢えず、付いて来い。
え...
???
信用がねぇのは分かるが、頼まれたことなんでな。
その人は、私に手を差し出した。
栗原 瞳
...
「この人は、信用して良い気がする。」

私は何故か、そう思った。



手を伸ばし、差し出された手を握る。
???
ん。素直で何より。
その人は私の頭を優しく撫でてから、優しく微笑んだ。




《温かい》



そう、思った。






















桐島 先生
マジかよ。
桐島 先生
こんな変な誘い方した奴に付いてきたのか?お前。
栗原 瞳
は、はい...
???
これ以外にどうやって誘えば良いんだよ。
桐島 先生
え?「俺と遊ぼうよ」的な?
潮目 先生
そっちの方が怪しい。というか、ほぼナンパ。
栗原 瞳
...
あの後、男性に付いて行ったら潮目先生と桐島先生に会った。

もしかしたら、あの人が二人の所に連れて行ったのかもしれない。
???
あ。
潮目 先生
ん?どうしたの?
???
俺、名前言ってない。
桐島 先生
ますます怪しいな。
???
変態に言われたかねぇな。
桐島 先生
失礼だな。
葉連 暮斗
俺は葉連暮斗はつらくれと。まあ、こいつらの幼なじみってとこ。
桐島 先生
無視かよ。
潮目 先生
はいはい。それは良いから。
潮目先生はそう言いながら桐島先生の背中を押した。
桐島 先生
わっ、ちょ、
潮目 先生
和人はお迎え宜しく!
桐島 先生
えっ?迎えるって...
すると、潮目先生は人差し指と親指をくっつけて、その手を口元で右から左へと移動させた。

小さい頃に、先生とかがやっていた「秘密」の合図だ。
桐島 先生
あー、はいはい。わーったよ。
栗原 瞳
...?
葉連 暮斗
君は知らなくて大丈夫。
男の人__葉連さん__はふっと笑った。
潮目 先生
ふふっ...宜しく。
潮目先生は笑った。

...可愛い人だなぁ。
桐島 先生
そこにいろよ?
潮目先生がこくりと頷くと、桐島先生は少し笑ってその場を去った。
葉連 暮斗
...行ったな。
潮目 先生
...うん。
すると、潮目先生は私の方へ歩み寄った。
栗原 瞳
え...
突然、ふわっと良い香りがしたと思ったら、いつの間にか私は、潮目先生の胸の中にいた。
潮目 先生
大丈夫。大丈夫だよ。
潮目先生は、何もかも見透かしているかのように「大丈夫だよ」と言い続けた。

...二度目の、《温もり》だった。
栗原 瞳
っ...
泣きそうな所を、寸前の所でなんとか我慢する。

大人二人の前で恥をかくわけにはいかない。






何故泣きたいのかも、何故こんなに悔しいのかも、何もかも分からなかった。


ただ、さっき与えられたばかりの人の温もりしか、私には残っていなかった。

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