第14話

後悔
342
2019/04/07 06:07
数分後、桐島先生が車に乗って戻ってきた。
桐島 先生
待たせたな。
桐島先生は車からおりると、私たちの方へ行かずに助手席の扉を開けた。


そこから出てきたのは────────







栗原 瞳
伏..見...さん.....?
目の前には、伏見さんがいた。

私が傷付けて、突き放した仲間──────
伏見 由希
話すの、久しぶりだね。栗原さん。
伏見さんは、笑った。


あの完璧な笑顔でも、私に見せた優しい笑顔でもない。

どこか悲しげな、少し怯えてるような、何とも言えない笑顔だった。
葉連 暮斗
んじゃ、俺らは退散だな。
潮目 先生
そうだね。行こう。
葉連さんと潮目先生は、そう言って私と伏見さんに背を向けた。
桐島 先生
近くにいるから、何かあったら呼べよ?
桐島先生は私と伏見さんに笑いかけた。
伏見 由希
言われなくても、呼びますよ。
伏見さんはくすくすと笑う。
桐島 先生
それで良し。
桐島先生もいたずらっぽく笑い返す。

何とも新鮮な光景だった。
桐島 先生
んじゃ、俺も行くわ。
桐島先生は手をひらひらと振って、その場を去った。


──────今ここにいるのは、二人だけ。
伏見 由希
話が、あるんだ。
伏見さんと、
栗原 瞳
話...?
私。
伏見 由希
うん。大事な、話。
伏見さんは私に歩み寄った。



そして、右手を大きく振りかぶる。


殴られ────────────























────────ペシッ






優しく、やんわりと頬を叩かれた。
栗原 瞳
え...
あんなに大きく振りかぶるものだから、勢い良く殴られるかと思った。
伏見 由希
馬鹿っ!!
伏見さんは突然、大声を上げた。
伏見 由希
何で死のうとしたの!?
伏見 由希
何でそんなに追い詰められてるの!?
伏見 由希
意味分かんないよ!
伏見 由希
本当に死んじゃうかと思ったじゃん!
伏見さんは涙目だ。息も荒い。
伏見 由希
谷崎さんを落としたから、もうどうなっても良いって思った?
伏見 由希
もう思い残すことは無いって思った?
伏見 由希
それとも...
伏見 由希
今更、後悔なんてしてるの?
栗原 瞳
ちがっ....
いや、違くなんかない。

私は────────────
伏見 由希
今更、後悔なんて遅いよ。
伏見 由希
もう、どうしようもなくなった。
伏見 由希
私、クラスの子から聞いたよ。谷崎さんと栗原さんが凄く仲良かったこと。
伏見 由希
谷崎さんが一軍になってから、栗原さんが谷崎さんから遠ざかっていったことも。
伏見 由希
ねえ、何で?
伏見 由希
何で、谷崎さんから遠ざかったの?
それは...
栗原 瞳
桜が変わってしまったから。
栗原 瞳
今回だってさ、放火だよ?
栗原 瞳
もう、全てが変わってしまったんだ。
伏見 由希
栗原さんも、変わったよね。悪い意味で。
.....え?
伏見 由希
一度でも、谷崎さんの話を聞いた?
伏見 由希
私、見てた。栗原さんが谷崎さんと喧嘩してる所。
伏見 由希
ただ一方的に、栗原さんが谷崎さんを悪者に仕立て上げていた。
栗原 瞳
悪者って...だって、桜は......
伏見 由希
放火なんて、してないよ。
......え?
伏見 由希
あの証拠の動画だけじゃ分からない。
伏見 由希
栗原さん、ちゃんと見てなかったでしょ?
伏見 由希
谷崎さんは、落ちていた火の付いたマッチを拾ったんだよ。
.....え?拾った?
伏見 由希
誰かが放火したのを放っておけなくて、拾ったんだと思う。
栗原 瞳
な、何で、そんなこと伏見さんが知っ.....
伏見 由希
葉連さん。
栗原 瞳
え...?
伏見 由希
葉連さんが見てたの。
伏見 由希
それで、潮目先生と谷崎さんが話してた時に葉連さんがたまたま来て、潮目先生は事実を知った。
伏見 由希
だから、少年院に行かずに済んだ。
伏見 由希
でも、谷崎さんは社会的な苦痛を受けて転校することにしたんだよ。
......え?
栗原 瞳
転校...?
伏見 由希
知らなかったの?
伏見 由希
谷崎さん、もう遠くに引っ越したよ。
そん..な....
伏見 由希
栗原さんは、酷い人だね。
伏見 由希
自分のことしか見てない。
伏見 由希
周りが見えない。
伏見 由希
まるで、




















邪知暴虐じゃちぼうぎゃくな女王様だね。』





















その言葉が、とどめの一撃だった。


















もう、とうに分かっていたハズなのに。





思い知らされた。






















「私がどんなに自己中心的だったか。」





















ただの生ぬるい後悔だけで

「やっと死ねる」なんて、馬鹿みたい。






















『お前に死ぬ価値は無い。』



『一生苦しみ続けろ。』









心の奥で、そんな声が聞こえた。

プリ小説オーディオドラマ