もしもあいつが私を狙わずに親しい人を殺すのであれば、居るならきっと、私の"家族"だ。
細かく言うと、凛の父親と母親である。
私は今、その2人が住んでいる、私がもともと住んでいた家へと直行する。
万が一戦闘になった場合に備えて黒竜を顕現させておく。
こうしているうちに、私はついに我が家へとたどり着ていた。
こんな夜中にバタバタと騒がしい音がするのは怪しいと、窓から突き破って侵入する。
するとそこに居たのは、
父親でもなく、母親でもない、"呪力を持った" "何か"
おそらく呪霊の類かと思われたが、違う。
呪力を感じたが、これも残穢だと気づいた。そして、今目の前にいる何かが、誰かの形によって変わってしまったのだろうと理解した。
この家に来てからは、今目の前にいる2つの何かしか会っていない。
___もう、身体ではとうに理解していたのだ。ここに、私の知っている姿をした父親と母親はいないが、今、"私の目の前に居るのだ"と
今、目の前にいるのは、
姿形を変えられた、"父親と母親"なのだった。
いつも父は腕時計をしており、
時間にマメだった。
母は結婚指輪にチェーンを通したネックレスを常につけていた。
それが今、姿の違う者に当てはまったのだ。
襲いかかってくる父と母、
それを黒竜の竜の姿で受け止めるも、2人はいつまでも戦おうとしてきた。
不意を打たれそうになり、咄嗟の行動で黒竜を刀の形にしてしまい、父の腕が簡単に切れてしまった。
涙が抑えきれない。
殺したくない。
でも、身体は染み付いていた。
最近まで何も思わず祓ってきた私の身体は、意志とは反対に動いていた。
顔に血がこびり付く。
生々しい音と、バサバサと切り裂く音が響き渡るだけで、それきり、呪霊は何もしてこななった。
同時に、実感した。
___私は今、両親を殺した。
それきり、私の思考は一気に真っ暗になり、停止した。
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5⃣side
ピッ
呪詛師の可能性があった織原和人との接触からあなたは数日たっても姿を現さなかった。
恵から聞くと、どうやら攫われたわけではなさそうで、あなた自身がどこかへ行ってしまったらしい。
音信不通、生存確認もできていない。
あなたのことだ、きっと理由なく去っていったのは有り得ないだろう。
そうこうしていると、ある事件が起きた。
映画館での変死体が発見され、そこにはしっかりと呪力の残穢が記されており、後に、変死体は男子高校生3名、何者かによって脳を弄られ、現場の監視カメラには、ツギハギの長髪頭の人の形をした呪霊__おそらく特級。
そして、その呪霊が去っていくと同時に、追いかけた非術師。
現在、この事件を解決するために悠仁と七海が動いている。
そして、その変異体は脳が死んでいても、意識とは反対に襲いかかってくるらしい。
それも、変異体は各地でまばらに起きている。一体何を考えているのだろうか。
次のページへ捲ると、何かのDVDが挟まれていた。
試しにパソコンへ繋いで見てみると、
出てきたのは"あなた"
呪術師になり、暫く俺との関わりが減ったあたりまでが映っていた。
音声はない、だが、それは全て呪霊を祓っているところだった。
スキップしても、また祓い、祓い、祓う姿が映し出される。
その映像から暗転し、別の映像が流れる。
____ツギハギの特級、
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電話越しからも聞こえてくる硝子のため息、どうやら大体予想はついているみたいだな。
もう、あの子が呪術師として戦う必要はないんじゃない?と、硝子が言う。
きっと、毎度毎度彼女の酷い傷を診ているから出た言葉なのだろう。
それとも、何か、
女の勘、というやつか。
違う、そうじゃない。
確かに、生徒の命は亡くしたくない。
大切な存在だよ。
でもきっと、硝子のいう"大切な人"は違うんだろ、
俺はあなたの事を、そんなふうに想っては駄目なんだ。
ピッ
答えは1つしかないはずなのに、
そう決めたはずなのに、
どこかで逃げている自分がいた。
俺は先生で、彼女は生徒。
それ以上の関係はない。
あの子と出会って、なぜ勧誘したのかは、自身の夢の為でもあった。
そして興味が湧いたからだ。
この子はきっと、強くなると。
でも、それ以前に、
俺にしては珍しい、善意。
____いや、結局は地獄へと導いたんだ、そんなわけないか。
ただ、助けたいと思った。
このまま自分を追い詰めて死ぬよりかは、地獄へ導いてまでも、生きて欲しいと思ったんだ。
俺が過ごした、あの素晴らしかった日々も知らない、あの無垢な瞳を俺は見過ごせなかった。
いずれは仲間達が増えて、憎しみや怨み以外の感情以外にも、たくさん感じてほしかった。辛くても、乗り越えて行って。
あの透明であり、呪うこと以外には何も知らない、あの瞳が、次に何を移すのか。
暗い夜道を歩いた先、
たどり着いたのは凛の両親…あなたの大事な家族がいる所だ。
明かりもついていない、ということは、やはり___
きっと、この家にあなたがいる。
少し前くらいに、通達があった。
あなたの家族の家にツギハギの呪霊の残穢が確認されたと。
それと、そこにはほかにも呪力の残穢が残されていた。
もちろん、それは___
リビングには横たわる変異された改造人間、否、あなたの家族の姿。
感じてくるのは、ツギハギの残穢もそうだが、あなたの呪力も感じられた。
一歩づつゆっくりと近ずいていくも、
その歩みを止まらざるを得なかった、
間合いを詰めて
あなたの肩を掴み、抱き寄せる。
やっとあなたが顔をあげた。
涙で睫毛が輝いていて、窓から光が差し込んで、幻想的で、とても綺麗だ。
俺の手を彼女の頬へ添えるように触る。
涙の跡で少し湿っていて、溜まっていた涙も指で拭ってやった。
実際、彼女に触れているこの手は、大勢の命を無くして、殺してきた。
きっと目に見えなくても、
血で真っ赤に染められ呪われているんだろうな。
どんな君だって、僕は受け止めるよ。
呪術師を辞めた君になっても、呪詛師になった君でも、ぜんぶ。
呪って、呪われて、そんなことを繰り返していく毎日を過ごして、
たとえその傷が癒えなくても
僕は君を_____
→episode19へ続く。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!