意識を取り戻して初めに見たのは
あの特級が現れた工場の廃墟のままだった。
たが、あたりに呪霊の気配もなく、あの特級の姿もない。
しかも_____
いや、なぜ先生が
傷を負った所を触りながら、頬をすり、と撫でる。
だが、彼の表情は怒りで塗れているように見えた。
すっとまたいつもの表情に戻り、変化した黒竜を見ていた。
それは、唐突なことだった。
うまく叫べない、声にならない声を、
涙と共に、零した。
もう彼には、会えないし、話すこともできないんだと。
命の儚さは、やはり時に残酷な刃を突きつける。
下を向いていたその顔がこちらを向いて
悔しそうな思いを私に感じさせた。
悠仁は死んだ。
その為に私がやれる事は?
なんで悠仁が殺される羽目になるのか、
両面宿儺を食べただけで、
特級呪物を食べただけで、
保身や伝統ばかりを気にして、
たった1人の命すらも簡単に殺した上層部を、
私は許せなかった。
うだうだ何も考えてなかった私をも
許せなかった。
私をおんぶして歩き始める。
骨が折れた痛みと、命を失った痛みが
私に突き刺さるようにくる。
沈黙からしばらくすると、
彼から話し始めた。
返答は、それだけ。
けれど深く掘り下げようとも思わなかった。
こんな状況で、そこまで頭が回らなかった。
けど、ただ確かにわかるのは___
彼は、酷く寂しそうに、悲しそうな
様子だった。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!