第4話

拝啓、ドナルド先生
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2023/10/26 09:53
 ※テベク独白









 過去にWevereseにて、オールツからこんな質問が来たことがある。



“もしアイドルにならなかったら、将来は何をしていたと思いますか?”



 この時の僕は、こう答えた。



「学者になっていたと思います。外国について専門的に研究する…」



「外国について専門的に研究する」──言っていることはあながち嘘ではない。だけど本当であれば、僕はこう答えたかった。



「学者になっていたと思います。日本イルボンについて専門的に研究する…」




 僕に質問をしてきたオールツは、韓国のユーザーだった。

 それ故に、「日本」というこの二文字を、伏せなければならなかったのだ。
 僕は予てより日本の文化に関心を寄せていたが、自分の生まれた国──韓国は、ご存知の通り反日教育が徹底された国だったので、その気持ちを周りに隠さなければならなかった。何故なら、少しでもそのことを誰かに洩らせば、学校では苛められ、世間では迫害の対象になるからだ。

 それ故に真に理解ある友達に恵まれず、終始孤独な僕だったが、唯一支えとなる存在がいた。お会いしたことは、終ぞ無かったけれど…………











 僕の支え──それは、ドナルド・キーン先生。

 日本文学研究の、世界的権威だ。


 彼はアメリカ人だが、ある時安売りされていた源氏物語の英訳版を読んだのを機に、日本の文学に興味を持ち、やがてその魅力を発信し、日本と世界を繋ぐ架け橋になった人だ。

 僕も形は違えど、書物(僕の場合は、子供向けに書かれた世界の地理や文化に関する本だった)を通じて日本に興味を持った人間なので、誠に勝手ではあるけれど、その点で先生に親近感を持っている。

 僕は中学の時に、新聞に載っていた知日派の作家のコラムを通じて、ドナルド先生の存在を知った。こんなにも日本そのものに興味を持っている──そんな西洋の人がいることに驚いた僕は、瞬く間にドナルド先生の本をアマゾンで買い込み(当時地元の本屋では、親日的な内容の本は一冊も売っていなかった)、電子辞書で翻訳しつつのめり込むように読んでいった。

 ドナルド先生の、日本の、そして日本人に対する眼差しは──好奇心と優しさ、そして愛で満ち溢れていた。
 彼の凄いところは、最終的に日本国籍を取得し、「日本人」になったところだ。切っ掛けは2011年に発生した東日本大震災だった。

 未曾有の状況下で、「今こそ日本人と共に生きたい」という──そんな強い思いが、彼を突き動かしたのだ。

 改めて思う。彼は、本当に凄い人だ。うちの国の人達とは大違いだ。うちの国には、その時にインターネットの動画サイトで、「おめでとう御座います」と言ったろくでなしがいた。それと比べると、本当の本当に雲泥の差だ。

 余談だが、震災発生当時、まだ小学5年生だった僕は、兎にも角にも日本の人達を助けたくて、「義援金」──もとい、500ウォン硬貨のみがパンパンに詰まった貯金箱(実は数年掛けて貯めたお小遣いなのだ)を手に、募金箱のある店を探していた。

 しかし僕の住んでいた街では、何処へ行ってもそんな店は一つもなかった。それどころか、一部の人からは────










「自分の金は自分のためだけに使いな、坊や。あれはただの自業自得だ。お前は生粋の韓国国民なんだから、日本野郎チョッパリ共への義理なんか、一切持たなくて良いんだよ」
 ────そう、一蹴されてしまったのだった。
 話を戻すが、ドナルド先生は2019年に、96歳でこの世を去った。

 僕は、一度だけでも彼に手紙を送ってみれば良かったと、今でも後悔している。彼と同じく、日本を愛する者として──そして、氷のように冷え切った韓日関係を、誰よりも憂う者として、先生に色々と訊いてみたかった。

 もしもアイドルにならなかったら──それこそドナルド先生と、同じ道を歩みたかった。もっと欲を言えば、先生のもとで直接、日本について沢山沢山、勉強したかった。

 だけど、こうも思うのだ…………今からでも、遅くはないのではないか。敬愛するドナルド先生はもう何処にもいないけれど、先生の意思を──非常に畏れ多くはあるけれど、自分なりにでも、継ぐことは出来るのではないか、と。

 そういうわけで僕は現在、その第一歩として、みんなには内緒で、日本語を勉強している。日本にいるオールツのためであるのは勿論だが──何よりも僕自身が、日本人が日本語で綴った、様々な書籍を読めるようになりたいからだ。

 それと此処だけの話だが、いつか来日することが叶ったら、その時は──僕は日本の人達に、習得した日本語で、日本への惜しみない愛を心から伝えたい。そしていずれは、新たな韓日の架け橋になりたいと、心からそう思っている。


 全ては、先生のお陰なのだ。
 拝啓、ドナルド先生。


 僕と貴方は一度も会ったことはありませんが、僕は貴方を知っています。

 僕の友達は、貴方が書いた本でした。僕の周りは日本を敵視する人達ばかりだったので、そういう人達から心を傷付けられる度に、僕は必ず貴方の本を読み、そして貴方の言葉に慰められ、励まされてきました。

 貴方が日本に対していつも向けている眼差しは、僕のそれと全く同じです。愛しているからこそ時に嬉しく、愛しているからこそ時に憂います。僕は韓国人だから、尚更です。

 現在僕はアイドルという、貴方が歩んだ道とは全く似ても似つかない道を歩んでいます。しかし心の中では貴方と同じくらい、日本への強い想いを持っています。形は違えど、日本の人達に尽くしたい気持ちは、貴方と一緒なのです。

 僕がこのようして、何年も日本という国を好きでいられ続けるのは、何を隠そう貴方のお陰です。貴方の知性が、愛情が、反日社会を嘆く僕の心を救い、癒やしてくれたのです。

 貴方という偉大な存在に、僕は改めて感謝の気持ちを申し上げます。そして僕はこれからも、貴方の背中を追い続けたいと思います。


 2020年2月24日 金明一キム・ミョンイル


 敬具

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