第58話

51話目 ひとつ上の先輩
1,528
2023/02/17 04:39
目黒side




阿部くんが走って帰ってしまった。




声をかけても振り返らず。




「今、なんて話してたの?」




「特に何も言ってないよ」




「そっか」




お店に向かったけど、阿部くんのことが心配になって




先にお店に行っといて。




と伝えて、俺はその場に立ち止まった。




少しすると返信が来て、




心配になりつつも、俺はお店に向かった。




やっぱり、一緒に来ない方がよかったのかな。




「おまたせ」




軽い同窓会みたいなイメージの食事会。




お酒を飲むけど、




気が進まない。




「目黒、阿部先輩といい感じなの?」




「ここで話す内容じゃないよな」




「まぁ、でも気になるじゃん」




「さっきまで家で一緒に映画観てた」




「いいな」




「夜は?」




「夜って、してる訳ないだろ」




「意外と目黒ってそこら辺気遣うんだ。ガツガツ行くのかと思ってた」




久しぶりに会う人たちも多くて




盛り上がっていると




借りてる部屋に入ってきた1人の男性。




その人はウロウロしながら




ある人を見つけて、俺の方に歩いてきた。




「あっ、来た」




齋藤がそう言った。




俺は誰なのかわからず居る。




「久しぶりやん。佐藤」




「齋藤です。」




「キレキレやん」




「あの……どちら様ですか?」




俺が声をかけると、隣にいた一ノ瀬が「まじかー」と。




「ごめんな」




その人はマスクを取った。




そこにはテレビで見たことある人がいた。




「向井康二さん」




「目黒くんやんな。よろしくやで」




「え?なんで」




「こーじくんは阿部先輩のクラスメイト。もしかして知らなかったの?」




「え?!」




「ほら、先輩で有名だった2人だよ。あべこじ」





「あべこじ」




「めめあべの人気も凄かったやんな」




あの時、阿部くんのことしか興味なくて




先輩との関わりは少なかった。




阿部くんと向井さんがクラスメイト。




この間、放送されたクイズ番組で共演してた……よな。




「目黒くん、ちょっと2人で話したいんやけどええかな?」




「あっ、はい」




「いこか」




人の居ない一角。




椅子に座り、話を聞く。




「急にごめんな。喋ったこともあんまりないのに」




「いえいえ。えっと」




「敬語やめてや。こーじ呼びでええし」




「こーじくん?」




「めめは康二って漢字タイプな気がするな」




「めめ?」




「目黒やからめめ。康二な」




「康二……分かりました」




「で、本題に入るんやけど」




その……康二は机にコップを置いた。




「阿部ちゃんになにがあったん?」




「どうして俺に?」




「前にたまたま携帯のトークが見えちゃって。ほんまに偶然な」




「それで俺に」




「高校時代、話したことなかったやん。だから、めめのこと知らんのよ。あんまり」




「俺も康二くんのこと知らないです」




「名前も?」




「はい。あの時は阿部先輩しか興味なくて」




「真っ直ぐでええな。阿部ちゃんとはクラスが一緒でたまに話してたんやけど、そん時は他に誰も居ない時だからな」




「ふたりなんですか?」




「阿部ちゃん、ひとりで居ることが多かったんよ。グループにいれようとしたんやけどなんか違ったみたいで」




確かに、誰かまとまっているイメージはない。




言われてみればそうだった。




なんかオーラがあって、綺麗で




人を惹きつけるけど、近づき難い。




「前に共演した時、はじめましてって挨拶されて。全く覚えてなかったからずっと気になってたんよ。で、聞いてもええかな?」




話していいのかわからず




戸惑っていると




康二くんが口を開いた。




「俺が知ってれば阿部ちゃんのこと仕事の時守れるし、無理に阿部ちゃんに聞こうとせんから」




確かに、それはあってる。




阿部くんだって、仕事中になんかあったら。




俺は阿部くんの事を康二くんに伝えた。




「そうやったんや。なるほどな」




「阿部くんに言わないでください。お願いします」




「俺も出来る限り支える。教えてくれてありがとな」




「いえいえ」




「じゃあ戻ろか。悪かったな、楽しい時間に引き止めて」




「康二くんはどうして阿部くんのこと?」




康二くんは振り返り笑った。




「そんなん決まってるやん。友達だからや」




そう言って齋藤のところに帰った。




遠くから齋藤と話す康二くんの姿。




阿部くんにあんなに素敵な友達居たんだ。




「おーい目黒。来いって」




「うん、すぐいく」




俺は輪の中にはいって話した。




初めて話したのに、




康二くんはすごく優しく話しやすかった。




帰るとか言っときながら




康二くんは最後まで居た。




20時すぎ、解散となり




帰る方向が一緒だったから2人で少し話した。




「じゃあ、ここで失礼します」




「またな~」




歩き出すと、「めめ」と呼ばれ引き止められた。




「言い忘れてた事があるんやけど」




「なんですか?」




「阿部ちゃん、さっき5駅離れた所で合ったんよ。弟さんが車で迎え来とった」




5駅?




「阿部くんの様子って」




「なんか息切れしてて、体調悪そうやったんよ。一応伝えとこうおもて」




「ありがとうございます」




「じゃ、帰るな~」




俺は康二くんと別れた瞬間。




走り出した。




大丈夫って言わせて、気を使わせた。




とにかく心配で会いたかった。




阿部くんの家まであとひと駅分。




めっちゃ走っているのに




疲れたのに足が止まらない。




インターホンに手を伸ばす。




聞こえてくる彼の声。




「あれ?目黒くん」




「勝手にごめん」




「ちょっとまってて。すぐ行くね」




玄関の扉から出てきた阿部くんは




パジャマ姿だった。

プリ小説オーディオドラマ