忘れもしない。
あれは事務所だった。
たまたま事務所で岩さんと会った。
岩さんは受付前で立っていたので不思議で聞いてみた。
岩さんは、初めて事務所に来るあなたに色々説明していた。
あなたはお辞儀をして岩さんの後を追っていた。
俺も亜嵐くんの後を追った。
今日は新曲の打ち合わせ。
休憩に入るとドアが開いた。
あなたはキョロキョロと中を見ていた。
ドアで話していると龍友くんが近寄って来た。
メンバーに紹介が終わると2人で部屋を出た。
その時の笑顔が今でも忘れられない。
事務所のエレベーター前で立っているあなたに近寄り教えた。
2人でエレベーターに乗りボタンを押した。
3階に着き、あなたはエレベーターから降りると行く方向を指さした。
逆方向を指さしていた手を掴み、正しい方向に直してやった。
俺はその前手を引き歩き出した。
会議室に着くとあなたはドアを開けて先に入って行った。
俺はあなたに聞こえるように言うと、あなたは舌を出して俺に「べーだ」とやって来た。
あの頃と変わらない笑顔で。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!