それから翌月。
撮影が始まった。
俺とあなたの撮影場所は海。
春とは言え海は冷たい。
俺は先に着替えとメイクを済まし、現場に降りていた。
あなたも着替えメイクが終わり、現場に降りてきた。
短パンにTシャツのラフな格好のあなたはレアだ。
俺達は言われた通りに歩いた。
俺達は言われた通りに会話しながら歩いた。
スタッフさんが目の前で説明をしながら動いてくれた。
スタッフに言われて、動きの確認をすると本番になった。
あなたの手を掴み、少し引き寄せてた。
俺の言葉にあなたは涙を流し、俺の肩に顔を埋めた。
何故か急に愛おしくなりあなたの頭に自分の顎を乗せていた。
カットがかかるとあなたは俺から離れた。
スタッフがチェックで離れると俺達はその場で待っていた。
俺はあなたの涙を手で拭いた。
俺達は手を繋いだまま、ブラブラ揺らした。
その言葉に俺達はやっと手を離した。
スタッフの案内であなたが先に歩き出した。
俺はあなたと繋いでた手を見た。
ホントに一瞬だったけど、あなたに対して愛おしく思ったし、手も繋いでいたいと思った。
最近あまりじゃれ合ったり、2人で話してなかったし、撮影で緊張してたのかな?
でも………。
あなたの方を見ると俺に向かって手を振っていた。
「好きだよ…」のセリフは本物な気がした。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!