数日後、エースクン達と約束した日になり、夕方頃にオンボロ寮へ出掛けるとルークサンに話したら、「友と過ごす休日。実に楽しそうだ。出来る事なら私もトリックスターをもう少し間近で観察してみたいが……うん。行っておいで」と笑顔を浮かべた。
このノリは何時もの事なので今更気にしたりしないが、あなたも面倒な人に目を付けられてしまったなと、憐れんでしまう。
オンボロ寮に向かうのは良いが、皆と遊ぶのが楽しみで約束の時間よりも早めに出てしまう。
早く着きすぎてもあなたとグリムが準備中かもしれないし、僕は時間を潰す為に散歩も兼ねて学校近くの森を歩く事にした。
歩いている途中に立ち止まり、空を見上げる。
耳を澄ますと、サァッと吹く風に乗って人の声が聞こえた。
声がした方に進み、恐る恐る草むらから足を出すと──────────
声がした場所には、変わった衣装を着た長髪且つ白髪碧眼で色白の男性が立っていた。
背は高めで細身ではあるが、長い袖からチラッと見えた腕には程よく筋肉が付いている。
まるで、この世の者ではない雰囲気を漂わせる男性の腰元には剣らしきものが見えた。
男性は僕を見ると一瞬目を見開いたが、直ぐ微笑んでから一歩一歩僕に近付いてくる。
隣に視線を移した瞬間、何処からかブワッと桜の花弁が一気に舞い、視界が遮られる。
────────“花嵐”だ。
桜が止むと、男性の姿は無くなっていた。
気が付いた時には、桜の花弁も跡形もなく消えていた。一体何だったのだろうか。
もう少し散歩したかったが、そろそろ時間というのもあり、僕は森から出てあなたに今の話をしようとオンボロ寮へ走った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。