────────数十分前。
薬研君に言われた通り、毛利君とオンボロ寮付近に現れた時間遡行軍を次々に倒した後、短刀達は念の為他の場所も見てくるとだけ言い、別の場所へ行ってしまう。
そんな中、玄関から人の気配を察知し、見に行くと扉が僅かに開いた。中から一人の少年がこちらを見ている。
少年が最初に見たのは僕と居る女性の幽霊。
次に、時間遡行軍を斬ったあとの血濡れた刀。
本来なら、時間遡行軍の残骸も血も暫くすれば消えるのだが……僕の刀に付いていた血はまだ消えていなかった。
信じてくれるかは分からなかったが、此処は幽霊のフリでもしてやり過ごそうとし、軽く怖がらせてみる。
主から学校には普通にゴーストもいるし、生徒達は生徒達で中々肝が据わっている部分もある……と聞かされていたので、正直怖がってくれるかどうかは怪しかったが、意外にも少年は怖がって扉を閉め、中へ入ってくれた。
乱君に言われて元の世界に帰る際、寮の中から楽しげな声が聞こえた。今まで特に気にしていなかったが、主は……家族と共に過し、学校に通い、友人と遊んで笑ったり、人間として寿命を迎える人生を望んだことはあるのだろうか。
僕達の主は人間では無い。
もしも主の“友人達”が主の正体を知ったらどのような反応をするのか……少なからず興味はある。
人としての意識から離れた主だからこそ、僕達の霊力も神格もより高くなった。
それ故に、他の本丸の個体とは違い、人間達の行動がより一層不思議に見える。
だが、そこが面白かったりもする。
携帯型時空転移装置を寮から離れた場所で起動すると、足元が光り出す。
消える寸前、静かに月を見上げた。
暗闇の中で綺麗に輝く月だが、何処か寂しそうに見える。
主は──────────
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!