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第1話

全てのはじまり
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2018/06/24 12:42
ああ、私は終わったのだろうか。
瞼が重い。
身体は徐々に溶けていくように感覚を奪っていく。
どうしてこんな事に。
もう諦めたかった。
残虐な父。ヒステリックな母。
兄は両親からのストレスで私に暴力を振るう。
すべてが嫌だ。
今から1時間前の事。
私が家を追い出されて、1週間。
この辺りは歩かせて貰ったことも無い。
ずっと閉じ込められている。
家の近くしか知らないから、ふらふらそこら辺を歩く。
こんな景色もあったんだな、
そんな事を思いながら重い足取りで歩いていく。
ポチは元気にしてるだろうか。
ちゃんと散歩に連れて行ってもらったり、
ご飯を食べているのだろうか。
ーーーーーーー!!!!!!!!
悲鳴にならないナニカの音がした。
家の中からだ。
不審に思って、家を追い出された事も忘れて玄関から入って見ることにした。
兄は息を荒くして居間に立っていた。
片手には、割れたガラス片を持って。
フーッ…フーッ………………
赤い液体がぽとり。
この…クソ犬がぁぁっっ!!!
「あ…や…」
声が出ない。
声にならない。恐怖で埋め尽くされる。
あ、そーだ。フォロワー、もっと増やすためにこの動画アップしよーかなぁ…
増えるかなあ。?????
片手にスマホを持って動画モードを開始する。
ポチの体から、血が止まらない。
真っ白な毛並みが、毎日とかしてあげていた毛並みが、赤く、紅く、朱く染まる。
ふと、気がついた時には
私は兄の喉笛を掻き毟り眼球にガラス片を突き刺していた。
え???????????????
兄は何が起こったのかわからない。
ぐ…
ぐぁいあああぁぁぁっっっ!?!?!
倒れ込む兄は放置し、
すぐさまポチの様子を確認する。
「ポチ!!!!!」
もう
そこには
天へと旅立った、
心から愛していたポチの姿があった。
「ーゥ」
こ…のっ…………………
血眼で手が切れて血が出てることも気にせずに、
兄は死に物狂いでガラス片を持ち、私に迫って来た。首筋には血管を浮き立たせ、唇は痛みに耐える為に噛んだのか、噛み切られている。
ころす………殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すっ………!!!!!!!
目も片方潰れた状態で
兄は最後の力を振り絞り走ってきた。
鬼の形相で。
もう"それ"は人間では無かった。
刹那。
私の首をガラス片が貫通する直前。
死を覚悟した瞬間。
恐る恐る目を開けるとすべてが止まっていた。
兄も。時計も。音も。空気も。
ポチの鼓動も。
あなた

え…?

頭の中で声がする。
???
あなたは、今死にました!
明らかな、楽しそうな、
わくわくしたような、これから面白い事が起こるような、
そんな、喜びで溢れた声がした。

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