あいつと出会ってから、もう長いはずだ。
異変解決だって今まで一緒にしてきたし、殆ど神社で一緒に過ごしている。泊まるなんて当たり前だし、晩御飯の当番だって決めている。殆ど同棲だ。外の世界では、同棲してるなら恋人同士と言えるのではないのか。
そもそもあいつと私は友達では無いのだ。向こうがどう思ってるのかは知らないが、一応返事は貰えたのだから。「いいわよ。」って。それだけだけど、少し顔を赤らめて。
なあ、霊夢。本当に私たちは───。
「霊夢、いるか?」
いつもと何も変わらない神社。境内の隅に目をやると、そこには紅い落ち葉を箒で集めている、同じく紅い彼女がいた。彼女は腰をあげると振り返る。
「いるわよ。あっそうそう、今日はあんたがおゆはん担当ね。」
私は背中に背負った籠を見せつけながら返事をする。
「知ってるさ。ほれ、秋刀魚取ってきた。」
「魚釣りしたの?」
少し怪訝そうに顔をしかめる彼女は霊夢。博麗の巫女であり、一応私の恋人だ。
「河童のとこでな。天狗とすれ違いそうになったのはなかなかのスリルだったぜ。」
霊夢は溜息をつきながら、呆れを混じえた声で言う。
「はー。妖怪の山なんてよく入れたわね。」
「ははーん。つまり私は博麗の巫女さえ入れない山に入ったってことだな。」
「私だって入れるわよ!」
「今度勝負するか?」
「めんどくさいからいいわよ。」
「あ、逃げた。」
「逃げたわけじゃないっての!」
そういうと霊夢は箒を鳥居に立て掛けてから縁側に向かう。私もそれについて行く。
「その秋刀魚、台所において置いて。」
「言われなくともそうするぜ。」
私は自分の箒を置いてから、籠を背負ったまま台所へ向かう。ガラガラと大きな音を立てて、古いガラス張りの引き戸が開いた。手を洗ってから、氷と水を大きな桶に入れて、籠から秋刀魚を取り出して放り込む。また手を洗って、秋刀魚の下に入れていた栗を笊に並べた。
「ふう、、、。今日は栗ご飯にするか。殻をむくのは骨が折れるが…。フランにでも頼むかな。」
そんなことを独り言で言いながら縁側に戻ると、霊夢はぼーっと空を見ていた。
「おい、霊夢?」
「……あ?ああ何?」
「お前最近どうしたんだ?いつもぽけーっとしてるじゃないか。」
「あー。なんかねー、、。」
「……あのさ、霊夢。」
「何よ?」
「……一応…聞くんだけどさ。」
「……。」
霊夢は何も答えずに、私の目を覗き込む。私はその黒い瞳から目を逸らした。
「あー、、。私達は、その。付き合ってるんだよ……な?」
「何言ってるのよ。あんたから言ったじゃないの。」
「そうだっ、、けどっ、、。」
なんというか、今までと何も変わらないじゃないか。私だって、泊まった時期待してるのに…何も無いじゃないか。いつもそうだ。自分だけさっさと寝やがって…。
「っ、、いい加減にっ!」
私は無理やり霊夢の唇に自分の唇を重ねた。
目をつぶって、恥ずかしいのをめちゃくちゃ堪えながら。
「ん?!!」
霊夢の顔はわからなかったけど、驚いてるのが分かる。時間が止まったようにさえ感じた。
「……っ、、ぷはっ。。」
「!!」
「っ、お前はもうちょっと私の事考えろよっ!」
「あっ、、あのねえっ?!魔理沙…!」
「いつも泊まってるのに何もしてくれないじゃないか!不安になるに決まってるだろっ!」
「……っ、、。」
「私のこと、ほんとに好きなのかよ……。」
「ぁ…ご、ごめんなさい魔理沙。その、私はちゃんと魔理沙のこと好きよ?」
「ならっ、」
「だって!魔理沙が可愛すぎて大事にしたくてっ!」
「はっ?!そ、そんな嘘ついたって騙されないからな!」
「嘘じゃないわよ!」
「ならなんでさっさと寝るんだよ!」
「寝ないと襲っちゃうじゃないの!!魔理沙は、その……大事にしたいのっ!なのにあんたいっつも誘惑して!」
「そんなことしてないだろーが!」
「してるわよ!なんで寝巻きちゃんと紐結ばないの?!胸元が見えそうなのがほんとに目に毒なんだから!」
「そんなこと考えてたのかよ?!」
「当たり前でしょ?!私だって魔理沙のことっ…。」
「ぅ…。」
ひとしきり言い終わったあと、私は恥ずかしすぎて死にそうだった。霊夢の方も顔を隠している。
「くっ…言うつもり無かったのに…。」
「そっちのせいだろ、、。」
「ていうか、、魔理沙もそういうことしたかったのね……。」
「当たり前だろ、、。恋人なんだから、そういうの期待するだろ、、。」
「はあ、、、。大事にしすぎたかしら、、。我慢させたわね。」
「全くだぜ。」
その時、霊夢が私の頬を手で包み込んだ。
「ふえ?」
「魔理沙、今日……抱くから。」
「……っ???!!!」
「覚悟しときなさい。」
「……はい…。」
その夜魔理沙と霊夢がどうなったかはご想像におまかせする。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!