あたりが一気に騒がしくなった。
何事かと思えば横山くんと村上くんが来たのだ。
「よかったやーん、あなたの王子様やで」
「よかったけど、よくない」
「なんで?」
「可愛すぎて苦しい」
顔を手で覆っていたせいで、今自分に何が起ころうとしてるのか全くわからなかった。
「…そか、こっち向かって来とるけど」
「…。は…!?」
手を顔から剥がし、人集りを凝視する。
女子に騒がれながら本当にこっちに向かってきたのは横山くん。
「えっと…宮野あなたさんやったよね?」
「うんは、はい…!!」
慌てすぎて「うん」と「はい」迷った。
なんか、笑われてるけど気にしない気にしない。
「これ、落としてるとこ見てもうてん。拾った俺が返さな思ったから届けに来たんやけど」
落としたのはカバー付きのポケットティッシュ。
大方、ほかの女子に聞いたんだろうけど、どうせ好感度アップを図った女子が「それ代わりに私が持っていこうか?」とか言ってたんだろうと思うと腹が立つね。
でも、大切なやつだったから持ってきてくれたのはすごい嬉しいし、なんかもう嬉しすぎてもうちょいで私死ぬんじゃないのかなぁ?と思っている。
物を受け取ると、次のライブがあることを教えてくれた。
「宮野さんっていっつもライブ来てくれてるやろ?ほぼ全部」
その通り、ほぼ全部行った。
けど、なんで知ってるのかが謎すぎる。
他の子みたいに出待ちとか差し入れしたり目立つこともなんもしてないのに。
「俺らが入部したときからの常連さんやったから気になっててん。いっつもありがとうな」
アイドルスマイルで横山くんはそう言い去って行く。
その背中姿すら美しい彼を見て、私は悟った。
今日が命日だと。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。