第5話

落とし物
15,098
2020/08/03 12:47
入れ替わり初日。



朝起きるといつも通りお母さんはもう仕事に出ていて、リビングでは汐が鏡の前で長い髪をいじっていた。




あなた「なんか、変な感じだね」


汐「んぁ?はよ。自分も早せぇや?」





櫛で前髪を整えながら、心底楽しそうに口角を上げた。



なんで汐が楽しそうなの……。





とりあえず軽く朝ごはんを済ませてから、一昨日届いたばかりのウィッグを取り出した。




髪をまとめてネットに入れ込み、ウィッグを被る。





あなた「う"っわ……汐じゃん」


汐「どういう意味やそれ!」





染みじみ、こいつと双子なんだって思い知らされた。


まぁ……そのおかげでスポーツ大会に出なくて済むんだけど。




汐「午前練何時からやっけ?」


あなた「8時。もう出ないと間に合わないよ〜」




鏡を覗き込んで、自分が汐の顔を動かしているみたいで変な気分になった。



汐は時計を見上げて「あかんっ!」と立ち上がり、カバンを無造作に掴む。




あなた「ちょっと!くれぐれも変なことしないでよ!?」



ドタドタと玄関に向かう汐を追いかけて釘を刺すと、「分かってまぁす❤︎」と少し声を高くした。




え、私あんな感じなの?




とりあえず見送ってから、私も準備を進めようとリビングに戻る。



と。





ガチャッ‼︎




汐「あなた!!いい忘れとったわ!!」


あなた「!?」




折角といたのに乱れた髪を揺らして、真剣な顔で私に叫ぶ。





汐「絶対、"宮"とだけは話すんやないで!!?」


あなた「……え?」





「宮」??


なんか聞いたことが……。





汐「顔は分かるやろ!あの双子とだけは関わるんやないで!?ええな!!」


あなた「えっ、待っ______」




ガチャンッ!!




あなた「えぇ…………誰よ、"宮双子"って」





まぁ……誰とも話さなければいい話だし。




双子なら、見たらすぐ分かるだろうしね……。
















西﨑 汐
西﨑 汐
忘れとったわ!!
??



稲荷崎高校に向かっていると、スマホにメッセージが入った。


汐からだ。
西﨑 (なまえ)
西﨑 あなた
なに
西﨑 汐
西﨑 汐
助っ人お願いしとるで!
お前がヘマしたら助けてもらおう思てな!
西﨑 (なまえ)
西﨑 あなた
助っ人?
西﨑 汐
西﨑 汐
せや!
その人にだけ入れ替わりんこと教えとるけ!
西﨑 (なまえ)
西﨑 あなた
え、誰?


そこから既読が付いたまま、返ってこなくなった。



多分愛美か誰かと鉢合わせたんだろう。




とりあえず向こうの成功を祈って、スマホをしまった。



とりあえず、バレないように補習を乗り切ろう。



助っ人が誰か分からないから、ひとまずは皆平等に汐っぽく……。




あなた「、」



前を歩いていた銀髪の男の子のリュックから、キーホルダーがコロっと落ちた。


本人は気が付いてないみたいで、拾い上げてみると相当付けっぱなしにしていたのか汚れていた。



直径3センチほどの丸い球が1つ。



なにこれ……?




でも、ここまで汚れるくらい付けてるってことは大切なものだよね?




あなた「あn___ごほっ、ん"ん"っ、…………なぁ」




精一杯汐の声に近づけようと出した声は聞こえてないようで、今度は少し張って声をかける。




あなた「なぁ、落としたで!」


?「っ、?」




肩をピクッと跳ねさせたその人は、こっちを振り返って何故か前を向き直し、そしてものすごい速度で振り向いた。




綺麗な2度見……。




?「え、俺?」



目をまん丸にして周りを見渡しながら、自身を指差すので頷いた。




あなた「せ、せや。これ落っことしたで。大事なもんちゃうん?」




……私、関西弁できてるかな?



でも、いい練習になる。




?「え…………あ、俺んや」




私の手元を見るとリュックを確認して、駆け寄ってきた。




あなた「ん」




うわぁ……でっか。


男子だ。久々に汐以外の男の子と話した……。





?「えっと……、なんで拾ってくれたん?」


あなた「……?え、落ちたから?」


?「…………???」




え、何故ここで首を傾げる。



普通の男の子って落とし物拾わないのかな?





あなた「なん……はよ受け取りや」




ついつい標準語が出てしまいそうになったのを抑えて、ボロが出ないうちに退散しようと押し付けた。





あなた「ほな!」





何故か終始驚いた顔をしていた男の子を放っておいて、走って学校へと向かう。



よし、この調子で乗り切ろう。






流石私!






























?「天変地異や…………ツムに報告せな」

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