入れ替わり初日。
朝起きるといつも通りお母さんはもう仕事に出ていて、リビングでは汐が鏡の前で長い髪をいじっていた。
あなた「なんか、変な感じだね」
汐「んぁ?はよ。自分も早せぇや?」
櫛で前髪を整えながら、心底楽しそうに口角を上げた。
なんで汐が楽しそうなの……。
とりあえず軽く朝ごはんを済ませてから、一昨日届いたばかりのウィッグを取り出した。
髪をまとめてネットに入れ込み、ウィッグを被る。
あなた「う"っわ……汐じゃん」
汐「どういう意味やそれ!」
染みじみ、こいつと双子なんだって思い知らされた。
まぁ……そのおかげでスポーツ大会に出なくて済むんだけど。
汐「午前練何時からやっけ?」
あなた「8時。もう出ないと間に合わないよ〜」
鏡を覗き込んで、自分が汐の顔を動かしているみたいで変な気分になった。
汐は時計を見上げて「あかんっ!」と立ち上がり、カバンを無造作に掴む。
あなた「ちょっと!くれぐれも変なことしないでよ!?」
ドタドタと玄関に向かう汐を追いかけて釘を刺すと、「分かってまぁす❤︎」と少し声を高くした。
え、私あんな感じなの?
とりあえず見送ってから、私も準備を進めようとリビングに戻る。
と。
ガチャッ‼︎
汐「あなた!!いい忘れとったわ!!」
あなた「!?」
折角といたのに乱れた髪を揺らして、真剣な顔で私に叫ぶ。
汐「絶対、"宮"とだけは話すんやないで!!?」
あなた「……え?」
「宮」??
なんか聞いたことが……。
汐「顔は分かるやろ!あの双子とだけは関わるんやないで!?ええな!!」
あなた「えっ、待っ______」
ガチャンッ!!
あなた「えぇ…………誰よ、"宮双子"って」
まぁ……誰とも話さなければいい話だし。
双子なら、見たらすぐ分かるだろうしね……。
・
・
??
稲荷崎高校に向かっていると、スマホにメッセージが入った。
汐からだ。
そこから既読が付いたまま、返ってこなくなった。
多分愛美か誰かと鉢合わせたんだろう。
とりあえず向こうの成功を祈って、スマホをしまった。
とりあえず、バレないように補習を乗り切ろう。
助っ人が誰か分からないから、ひとまずは皆平等に汐っぽく……。
あなた「、」
前を歩いていた銀髪の男の子のリュックから、キーホルダーがコロっと落ちた。
本人は気が付いてないみたいで、拾い上げてみると相当付けっぱなしにしていたのか汚れていた。
直径3センチほどの丸い球が1つ。
なにこれ……?
でも、ここまで汚れるくらい付けてるってことは大切なものだよね?
あなた「あn___ごほっ、ん"ん"っ、…………なぁ」
精一杯汐の声に近づけようと出した声は聞こえてないようで、今度は少し張って声をかける。
あなた「なぁ、落としたで!」
?「っ、?」
肩をピクッと跳ねさせたその人は、こっちを振り返って何故か前を向き直し、そしてものすごい速度で振り向いた。
綺麗な2度見……。
?「え、俺?」
目をまん丸にして周りを見渡しながら、自身を指差すので頷いた。
あなた「せ、せや。これ落っことしたで。大事なもんちゃうん?」
……私、関西弁できてるかな?
でも、いい練習になる。
?「え…………あ、俺んや」
私の手元を見るとリュックを確認して、駆け寄ってきた。
あなた「ん」
うわぁ……でっか。
男子だ。久々に汐以外の男の子と話した……。
?「えっと……、なんで拾ってくれたん?」
あなた「……?え、落ちたから?」
?「…………???」
え、何故ここで首を傾げる。
普通の男の子って落とし物拾わないのかな?
あなた「なん……はよ受け取りや」
ついつい標準語が出てしまいそうになったのを抑えて、ボロが出ないうちに退散しようと押し付けた。
あなた「ほな!」
何故か終始驚いた顔をしていた男の子を放っておいて、走って学校へと向かう。
よし、この調子で乗り切ろう。
流石私!
?「天変地異や…………ツムに報告せな」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。