目が覚めたら
そこは病院だった。
体は動かなかった。
医師は『脳に強い衝撃が_』とか。
ながったるい話しばかりでつまらなかった。
母が来て、何度も謝られた。
母は悪くないのに。
警察に話を聞かれた。
事故についてだ。
私は
そう説明した。
嘘はついていない。
なにも悪い事はしていない。
けれど、私は一人になってしまった。
母はあれ以来来ていない。
私の姿を見るたびに思い出してしまうから。
父は海外出張で不在。
一人っ子だから兄弟もいない。
友人には病院を知らせていないそうだ。
前に子供達で集まって騒動を起こしてから、
この病院ではそう決められたそうだ。
二日経っても病院からは出られない。
当たり前だけれど、それが辛かった。
まるで覚めない夢のようで。
やっと動くようになったのは
上半身だけだった。
車椅子を使い、庭に出る。
医師には止められたが、
いつまでも部屋にいたら
気が滅入ってしまうから、
しぶしぶ許可を得た。
ゆっくりと、車椅子からベンチに移動して、
…ただ呟いただけだった。
独り言のはずだった。
…聞かれてたなんて思わなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!