嬉しいはずなのに、ずっと苦しい。
井上くんは気を遣ってくれているのか。
会話が途切れないよう、話題を振ってくれる。
こうやって大学や、将来について話していると。
高校生活も、残りわずかなんだなと思い知らされる。
周りの子達は、ちゃんと将来を見据えていて。
その為に何をするのがベストかまで、分かっている。
だからこそ、言葉に詰まった。
何度も、オープンキャンパスに行って。
色んな話を聞いて、学生さん達の雰囲気を見て。
学ぶ自分も想像できたのに。
何か違うと心が言っていて。
だから、時間が許す限り。
色んな大学を訪れる事に決めた。
今週末にも2件、説明会に参加する予定がある。
余計な事を考えないように歩いて居たせいか、
もう学校は目の前。
友達の目もあるから、ここからは別々に登校した方が
良いのでは、という考えも頭をよぎったけれど。
私は、ずるいから。
やっぱり、切り出さない。
この気持ちが消し去られてしまえば楽なのに。
笑顔を貼り付けて、教室に入り。
席に座ろうとすると。
友達に手招きされて、鞄を机の脇に掛けてから向かう。
言いずらそうに、でもハッキリと尋ねて来る彼女に
苦笑した。
笑っていれば、大丈夫だと思ったのに。
どうやら、バレて居たようで。
それでも、何度目か分からない無理矢理の笑顔で。
その先を封じ込めた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。