1年生クラスの廊下を、自然な足取りで進んで行く親友。
下級生の視線がとにかく痛くて。
つい、重心を後ろに掛けた歩き方になってしまう。
一つ一つクラスを見て、黄瀬くんの姿を探すけれど。
これが、なかなか見つけられない。
何故か焦っている怜菜を宥めながら、D組を覗くと。
友達と楽しそうに談笑する、黄瀬くんの姿があった。
私の言葉を聞いた途端、興奮気味に探し出す怜菜。
3年生が1年生の廊下に居るだけでも目立つのだから、
これ以上は勘弁して欲しい。
その後聞こえた何やら気になる呟きも。
上手く躱されてしまった。
早く呼び出しをしたい怜菜が
息を勢い良く吸い込むのを、慌てて止める。
どれだけの大声で呼ぼうとしているのだろうか。恐ろしい。
しばらくの間。
3年生らしからぬ醜い痴話喧嘩を繰り広げていると。
色々面倒になったらしい怜菜が強行突破で。
D組に向かって叫んだ。
仮にも生徒会長なのに、信頼が危ぶまれてしまう。
先生に何か言われたら...と新たな悩み事が増えて。
声にならない悲鳴を上げている、ちょうどその頃。
教室内に居た黄瀬くんが、私達に気づいたようだった。
立ち上がった彼を見ながら、どう説明しようと考える。
黄瀬くんの友達の視線が凄いし、怜奈は頼りに出来ない。
時間を取らせている事を申し訳なく思いつつ。
1人、頭を抱えた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!