朝日が、全ての街に届き切って居ない時間。
手早く支度を整えた私は、黄瀬くんに借りた服を着て。
わざわざ見送りに起きてくれた彼と彼の両親に頭を下げる。
男物の服を着た所なんて見せたら、何か言われそうだけど。
そんな事は気にして居られ無いから、忘れる事にした。
1人で帰ると聞かなかった私を。
黄瀬くんは、まだ心配してくれて居る。
彼の両親も最後まで優しくて。涙が出そうになる。
どこか雰囲気の似た笑顔を浮かべる3人に見送られ。
ゆっくりと、自宅に向かって歩き出す。
昨夜、彼が泣いた事が。
朝になっても、心を締め付けて離さない。
黄瀬くんを知らな過ぎる事、何も出来ない事が。
本当に、本当に悔しくて堪らないから。
胸元で拳を握った、その時。
大好きだった人の。
戸惑いと驚きを混ぜた声が聞こえて。
反射的に顔を上げれば、ラフな服装の彼と目が合う。
優しく微笑まれて、少し後ろめたかった。
何も、悪い事はして居ないのに。
"後輩"の家に泊まっただけなのに、そう言えば良いのに。
何故か、言えなくて。
咄嗟に、嘘をついてしまった。
こんな嘘、井上くんには通用しないのに。
喉が詰まってしまったかのように、言葉が出て来ない。
彼は、もう気付いて居る。
私が昨日、自分の家に居なかった事に。
後輩の男の子の家に泊まった事にも。
恐る恐る謝罪の言葉を口にすれば、力無く笑った彼。
この後。私の中で最も古い、呪いの言葉を口にする。
ようやく彼から離れられそうになった私を。
再び恋に縛り付ける言葉を。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。