第31話

第30話
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2020/07/11 03:00
朝日が、全ての街に届き切って居ない時間。
手早く支度を整えた私は、黄瀬くんに借りた服を着て。
紗南
紗南
それじゃあ、お世話になりました。
わざわざ見送りに起きてくれた彼と彼の両親に頭を下げる。
紗南
紗南
黄瀬くんは...また、学校でね笑
男物の服を着た所なんて見せたら、何か言われそうだけど。
そんな事は気にして居られ無いから、忘れる事にした。
瓏登
瓏登
...はい、本当に送らなくて大丈夫なんですか?
1人で帰ると聞かなかった私を。
黄瀬くんは、まだ心配してくれて居る。
紗南
紗南
うん。泊まらせて貰った上に
送って貰うなんて悪いから...笑
大丈夫だよ。ありがとう笑
紗南
紗南
ご両親も、本当にありがとうございました
彼の両親も最後まで優しくて。涙が出そうになる。
瓏登のお父さん
また泊まりにおいで
瓏登のお母さん
えぇ。紗南ちゃんなら大歓迎!
どこか雰囲気の似た笑顔を浮かべる3人に見送られ。
紗南
紗南
(楽しかったなぁ、黄瀬くんとのお喋り)
ゆっくりと、自宅に向かって歩き出す。
紗南
紗南
(でも...辛そう、だった)
昨夜、彼が泣いた事が。
朝になっても、心を締め付けて離さない。
紗南
紗南
...私に、何が出来るのかな
黄瀬くんを知らな過ぎる事、何も出来ない事が。
本当に、本当に悔しくて堪らないから。
胸元で拳を握った、その時。
奏汰
奏汰
............瀧野、さん?
大好きだった人の。
紗南
紗南
!!!!
戸惑いと驚きを混ぜた声が聞こえて。
反射的に顔を上げれば、ラフな服装の彼と目が合う。
奏汰
奏汰
朝起きるの、早いんだね。おはよう
優しく微笑まれて、少し後ろめたかった。
紗南
紗南
あ......うん。おはよう、井上くん
何も、悪い事はして居ないのに。
"後輩"の家に泊まっただけなのに、そう言えば良いのに。
紗南
紗南
私も、少し散歩中で笑
何故か、言えなくて。
咄嗟に、嘘をついてしまった。
奏汰
奏汰
...この服。本当に瀧野さんの?
こんな嘘、井上くんには通用しないのに。
紗南
紗南
えっ、、、と......
喉が詰まってしまったかのように、言葉が出て来ない。
奏汰
奏汰
正直に答えて欲しい。
昨日の夜、"どこに"居た?
彼は、もう気付いて居る。
紗南
紗南
...嘘、ついて...ごめんなさい
私が昨日、自分の家に居なかった事に。
後輩の男の子の家に泊まった事にも。
奏汰
奏汰
...やっぱり、そっか
恐る恐る謝罪の言葉を口にすれば、力無く笑った彼。
奏汰
奏汰
謝って欲しかった訳じゃ無いんだけど...
この後。私の中で最も古い、呪いの言葉を口にする。
奏汰
奏汰
もし。もし、俺が今更さ。
ようやく彼から離れられそうになった私を。
奏汰
奏汰
瀧野さんの事が好きって言ったら...どうする?
再び恋に縛り付ける言葉を。

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