結論で言うと。
『デート』は、とても楽しくて。
色々と疲労が溜まった心を、少し軽くしてくれた。
それでも、まだ。上手く笑えない。
この優しさに甘え続ける罪悪感がある癖に。
彼から貰う束の間の幸せに、溺れて居たい。
揺れ続ける感情に、心が締め付けられたから。
いっそ、この曖昧に繋がれた手を。
躊躇いなく振り解いてくれたら楽なのに。
黄瀬くんのような心が清らかな人の傍に居たい。
私のような無責任な人と一緒に居て欲しくない。
好きになりたい。
.......失いたくない。
彼の手を、もう一度。
ぎゅっと握ると、柔らかく握り返されてしまう。
残酷な程に優しいから、甘えたくなってしまうのに。
指定場所に足を進めながら、振り向かずに。
彼は、私の事を呼んだ。
始めて名前呼びにされた日が、懐かしく思えて。
彼が何か言う、その前に。縋る様に呟く。
意地悪な質問だと言うのは、分かって居た。
少し苦しそうな声で零された言葉は、図星で。
曇り切った彼の表情に後悔の念が押し寄せる。
静かに俯いて謝罪すれば、彼は黙って首を振ってくれた。
言いかけられた言葉は。
聞きそびれてしまったのだけど。
でも、心の何処かで。
その言葉を見透かして居る自分も居た。
私のような馬鹿で愚かな人間を。
どうか、好きにならないでと思ったから。
彼に抱く感情の全てを、素直に"恋"と呼べたなら。
こんなに悩む事も、無かったのだろうけど。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。