第30話

第29話 瓏登side
1,198
2020/07/03 15:00
黄瀬くんって好きな人とか居るの?...と聞かれた時。
先輩がそれを聞くんだな、と思った。
紗南
紗南
あっ、えと...言いたく無かったら大丈夫!
自分から聞いた癖に焦り出すのも、彼女らしい。
瓏登
瓏登
...居ますよ、好きな人
嘘を付く事も出来たのに、僕は正直に答えて。
紗南
紗南
おぉ?やっぱり居るんだ笑
瓏登
瓏登
やっぱり、って何ですか!?
前々から気付いて居た風に言い出す先輩に対して、
察しの悪い後輩を演じながら。
薄々、勘づいた。
瓏登
瓏登
(...私な訳ないって思ってるんだろうな)
心臓が握り潰されて居るみたいに、痛みが強くなって行く。
苦しい、苦しい。...息が、しづらい。
紗南
紗南
..................?
僕の異変に気づいた先輩に顔を覗き込まれる事を阻む為。
瓏登
瓏登
...ごめんなさい、少しだけ...
ぎゅううう、と力を込めて抱き締めた。
紗南
紗南
ちょ...どうしたの...?
先輩と言えど女子。当然、僕の方が背が高い訳で。
その華奢な身体を、包み込む形になる。
紗南
紗南
...何で、泣いてるの......?
やがて、躊躇うように宙を彷徨った手が僕の背中に触れて。
紗南
紗南
.........大丈夫だよ、私は此処に居る
撫でられる優しい手つきに、意味も無く泣きたくなった。
もし先輩の好きな人が僕なら、幸せな気分に浸れるのに。
瓏登
瓏登
...........っ、く......ぅ...
この行動が同情から来るものだと分かるからこそ、辛い。
声を押し殺して、泣き続ける。
紗南
紗南
...誰の事を想って泣いてるの?
先輩の事を想ってるのに。
紗南
紗南
何か...黄瀬くん、消えちゃいそう。
見てられないよ......
先輩の所為なのに。
紗南
紗南
...その人の事、すっごく好きなんだね
早く気付いて欲しいと思う反面、
気づかないでと願ってしまう。
この矛盾を許して欲しい。
瓏登
瓏登
......死ぬ程
だって、この矛盾が無くなってしまったら。
紗南
紗南
____え?
今の僕に唯一与えられて居る特権も。
瓏登
瓏登
その人の為なら死ねるって位、大好きです
紗南
紗南
...死ぬ、ほど........
奪われてしまう気がするから。
紗南
紗南
...でも、少し分かるな、その気持ち
とくん、とくん...と規則正しい先輩の心臓の音。
紗南
紗南
私もさ。井上くんが幸せなら、
それで良いって最近...思うんだ
今、先輩に愛されて居る。そう思う事にする。
紗南
紗南
...こういう事。好きな人が辛い思い
してる時に、してあげてね
好きな人に触れられる。
瓏登
瓏登
.......僕がしたら気持ち悪いかなって...
その許可が、今は僕だけに下りて居るんだから。
紗南
紗南
私の事は抱き締めてくれたのに?笑
文句なんて言えない。反論なんて出来ない。
瓏登
瓏登
.....はい
ズキリ、と。心にヒビが入る音がした。

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