違う、そんな訳ない。
井上くんの悪戯心に、からかわれて居るだけ。
掻き乱されちゃ行けないと、掠れた声で笑うけど。
真面目な雰囲気を崩さない彼は、消えない。
それ所か、本心から信じて欲しそうで。
また、恥ずかし過ぎる勘違いをしそうになる。
しばらく考え込みつつ、伏せられた井上くんの瞳が。
優しい色を称えながら、私を映して。
照れ臭そうに、視線を外す。
呼吸が、一瞬止まった。
どうして今更この恋を叶えてしまうの、と言う気持ちと。
素直に喜びたい気持ちが、自分の内側でぶつかり合う。
だから。.......だから。
この何か引っ掛かる感情も。
戸惑いと驚きの所為。
今の私は、上手く笑えて居るんだろうか。
嬉しいのに嬉しくない。
あの子の顔が脳裏をチラついて仕方が無い。
どんなに優しい言葉を掛けて貰っても、
あの頃みたいにドキドキしない。
赤面しない以前に。
友達として彼を捉え始めて居る自分に、驚いた。
断るなら早い内に。
あの頃、1番に望んだ彼の隣を手に入れるなら今すぐ。
差し出された手を掴めなかった。
瞬間的に隣に居たいと思えなかった。
もう1人の私が分かりたくないと言って
答えを出すのを拒んだだけで。
.........本当は、怜奈に言われた日から気付いて居た。
もう誰にも、恋をして居ない事に。
名前の付けられない気持ちを、どれほど彼に対して見つけ。
手も堂々と繋げない関係に悩んだか。
きっとそれを、私の苦悩を。
_______貴方は知らない。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!