第8話

第7話
1,813
2020/04/02 12:47
詩音
詩音
ごめん!.....お待たせ!
私の横を走り抜けて行った、1人の女の子。
思わず目で追っていると。
その子は私も良く知る人に話しかけた。
奏汰
奏汰
................って.....ないよ
紗南
紗南
............あれって...井上くん?
あと10分、仕事が長引いて居れば。
紗南
紗南
(待ってないよ、って言ったのかな)
ひょっとしたら、あと5分。
学校を出るのを遅らせていたら。
紗南
紗南
(隣の女の子って…彼女さん?)
知らずに、見ずに。
居られたかも知れない光景から、目が離せない。
校門前で一緒に作業をしていた生徒会メンバーと別れて。
お腹すいたなぁ、なんて考えながら歩いて来ただけなのに。
紗南
紗南
(こんな、間が悪い事って.......)
あまりの運の悪さに、笑ってしまいそうになる。
紗南
紗南
(分かってた。分かってたよ)
ずっと、ずっと彼を見ていたから。
気づいてしまった。
紗南
紗南
(幸せなんだね、井上くんは)
1年前より、遥かに。
幸せそうに笑っていると。
やがて並んで歩き出した2人が、左に折れて。
どこかへ向かった後。
紗南
紗南
どうして、好きになっちゃったかなぁ...
ようやく塞がりかけた傷が、また開いた音がして。
もう姿は見えない井上くんの消えた方向を
食い入るように見つめる。
紗南
紗南
(.........泣かない。決めたんだから)
じわり、と滲んだ涙は。唇を噛む事で耐えた。
...でも。最悪の状況は、重なる。
瓏登
瓏登
...............瀧野先輩?
困惑したような声と共に、私に前に立った影。
紗南
紗南
...........................!!
紗南
紗南
あ.........黄瀬、くん...
どうしたの?こんな所で笑
きっと、今の私の顔は酷いんだろう。
瓏登
瓏登
え、えっと.........
気遣いに溢れる眼差しで。
触れて良いのか迷っているようだったから。
瓏登
瓏登
ー大丈夫、ですか?
そんな優しい後輩の問いに。
プライドだけを支えにして笑うけど。
紗南
紗南
...うん!大丈夫だよー笑
瓏登
瓏登
.......そう、ですか。なら良かったです。
ぎこちない空気が流れて。
紗南
紗南
(コレはバレたな)
もっと酷くなる前に、と慌てて言った。
紗南
紗南
じゃあ、私は帰るね。
この後、少し用事があって。
逃げる為の言い訳を。
瓏登
瓏登
...分かりました、お疲れ様です。
紗南
紗南
ありがと!黄瀬くんもね!
"用事"がある、と言うのは。
あながち嘘では無い。
溜めに溜め込んだ気持ちを、出さないと行けないから。
紗南
紗南
(また、井上くんに会うの
気まずくなっちゃったなぁ...)
私のついた"嘘"に、きっと彼も気づいているだろうけど。
紗南
紗南
またね!
瓏登
瓏登
.........はい!また!
何かを察したのか。
それ以上は、聞かないで居てくれた。

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