私の横を走り抜けて行った、1人の女の子。
思わず目で追っていると。
その子は私も良く知る人に話しかけた。
あと10分、仕事が長引いて居れば。
ひょっとしたら、あと5分。
学校を出るのを遅らせていたら。
知らずに、見ずに。
居られたかも知れない光景から、目が離せない。
校門前で一緒に作業をしていた生徒会メンバーと別れて。
お腹すいたなぁ、なんて考えながら歩いて来ただけなのに。
あまりの運の悪さに、笑ってしまいそうになる。
ずっと、ずっと彼を見ていたから。
気づいてしまった。
1年前より、遥かに。
幸せそうに笑っていると。
やがて並んで歩き出した2人が、左に折れて。
どこかへ向かった後。
ようやく塞がりかけた傷が、また開いた音がして。
もう姿は見えない井上くんの消えた方向を
食い入るように見つめる。
じわり、と滲んだ涙は。唇を噛む事で耐えた。
...でも。最悪の状況は、重なる。
困惑したような声と共に、私に前に立った影。
きっと、今の私の顔は酷いんだろう。
気遣いに溢れる眼差しで。
触れて良いのか迷っているようだったから。
そんな優しい後輩の問いに。
プライドだけを支えにして笑うけど。
ぎこちない空気が流れて。
もっと酷くなる前に、と慌てて言った。
逃げる為の言い訳を。
"用事"がある、と言うのは。
あながち嘘では無い。
溜めに溜め込んだ気持ちを、出さないと行けないから。
私のついた"嘘"に、きっと彼も気づいているだろうけど。
何かを察したのか。
それ以上は、聞かないで居てくれた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。