実らなくても、良かった。
ただ、見つめていられるだけで、幸せだった。
そうやって言い訳をしながら過ごした3年間。
密かに想い続けた日々に。
呆気なく、終止符が打たれた。
.................。
今日は、夏休み明け最初の登校日。
どことなく緩んだ空気の中でも、井上くんからは
しっかり者のオーラが滲み出ていて、格好良かったけど。
朝から友達に、あんな事を聞かされてしまい。
正直、顔を合わせるのが辛かった。
様子が変な事に気付かれたのか、
気遣うように声をかけられて。
嬉しいはずなのに、悲しかった。
いつも通りに笑っていても、私に優しくしてくれても。
彼はもう、他の誰かの物なのだから。
忘れなきゃ、諦めなきゃ。
想いを殺して、笑顔を貼り付ける。
.....あわよくば、井上くんが抱く違和感を拭えるように。
その後も、彼について色んな事を耳にした。
放課後の電車の中。
一緒に帰る友達に、井上くんの彼女さんの事を
教えて貰っていると。
優しい友達が心配そうに私の顔を覗き込んで来て。
笑おうと、した。
笑おうとしたのに。
じわ、と涙腺が緩んで。
ずっと堪えたものが、一斉に溢れ出した。
私の涙を見た友達が、見られないように肩を貸してくれて。
今日だけ、今日だけだからと。理由を付けて。
しばらくの間、泣かせて貰った。
少し時間が経って。
泣き腫らした目の涙を拭う私は、彼女の言葉に小さく頷く。
もう、井上くんを想って泣かないように。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。