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第1話

プロローグ
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2021/06/13 10:39
実らなくても、良かった。
ただ、見つめていられるだけで、幸せだった。
そうやって言い訳をしながら過ごした3年間。
密かに想い続けた日々に。
友達
ねぇ、紗南.....聞いた?
紗南
紗南
?…何が?
友達
...井上くん、彼女できたって
紗南
紗南
.............え?
呆気なく、終止符が打たれた。
.................。
今日は、夏休み明け最初の登校日。
奏汰
奏汰
瀧野さん、おはよう。
どことなく緩んだ空気の中でも、井上くんからは
しっかり者のオーラが滲み出ていて、格好良かったけど。
紗南
紗南
.....あ、井上くん.....おはよう!
朝から友達に、あんな事を聞かされてしまい。
正直、顔を合わせるのが辛かった。
奏汰
奏汰
ーどうかした?
様子が変な事に気付かれたのか、
気遣うように声をかけられて。
紗南
紗南
うっ、ううん!
何でもないよ、ごめんね笑
嬉しいはずなのに、悲しかった。
奏汰
奏汰
そっか。なら、良かった
いつも通りに笑っていても、私に優しくしてくれても。
奏汰
奏汰
無理しないでね。僕も出来る仕事は手伝うし、
瀧野さん頑張り過ぎだから笑
彼はもう、他の誰かの物なのだから。
紗南
紗南
そんなこと無いよ!笑
でも、ありがとう。大丈夫!
忘れなきゃ、諦めなきゃ。
想いを殺して、笑顔を貼り付ける。
奏汰
奏汰
(.....瀧野さん、どうしたんだろ...)
.....あわよくば、井上くんが抱く違和感を拭えるように。
紗南
紗南
(もう、諦めよう。
未練なんか迷惑になるだけだ)
その後も、彼について色んな事を耳にした。
友達
.......相手は他校の女の子で、
市内の図書館で知り合ったみたいだよ。
紗南
紗南
そう、なんだ。
ありがとう、教えてくれて。
放課後の電車の中。
一緒に帰る友達に、井上くんの彼女さんの事を
教えて貰っていると。
友達
ねぇ、紗南。
聞かれたから教えてるけど...
無理に聞かなくても良いんだよ?
優しい友達が心配そうに私の顔を覗き込んで来て。
紗南
紗南
大丈夫だよ笑
ちゃんと.....っ、諦める為だから...笑
笑おうと、した。
笑おうとしたのに。
紗南
紗南
あれ.........なんで.....
じわ、と涙腺が緩んで。
紗南
紗南
どうして、私.....泣いて.....
ずっと堪えたものが、一斉に溢れ出した。
友達
紗南............っ、辛かったね。
よく頑張ったよ、紗南は
私の涙を見た友達が、見られないように肩を貸してくれて。
友達
悲しい時は、泣いて良いんだよ。
紗南
紗南
ごめん.....ありがとう....っ、う
今日だけ、今日だけだからと。理由を付けて。
しばらくの間、泣かせて貰った。
友達
...........いつか、過去になるから。
一緒に進もう?次の恋に
少し時間が経って。
泣き腫らした目の涙を拭う私は、彼女の言葉に小さく頷く。
紗南
紗南
ーうん。私、頑張るよ
もう、井上くんを想って泣かないように。

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