第16話

*16 兄さん、教えてよ
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2020/03/30 08:58



 麗綺を後ろに乗せたまま、透の自転車は2人の家についた。初めて来た日から家の様子は随分変わっていた。

 慎介は良い企業に務めており、収入は充実と安定していた。その為大きな買い物が出来たのだ。荷解きしてやっと落ち着いたと思えば車を買うと言い出し、また忙しくなったり。
 野菜を育てたいと言い出し、庭の一部を耕す羽目になったり。麗綺は家でゆっくりする時間もなかった。
 しかし、そのおかげか家の外見は高級っぽくなっていた。

 麗綺は透の自転車から降りてぐじゃぐじゃになった髪を軽く整え、眼鏡を適正位置に戻した。

 
不知火 透
不知火 透
麗綺って目、どんくらい悪いの?
不知火 麗綺
不知火 麗綺
あぁ、これ伊達だてなんだよね。
不知火 透
不知火 透
え?…なんで伊達眼鏡つけてんの?
不知火 麗綺
不知火 麗綺
昔、人を見てたら睨まれたと勘違いされて泣かれて。その人がめっちゃモンスターペアレントで。なんか分かんないけど罵声とか暴言浴びさせられたのね。
 幼稚園児にそんなこと言う?っていうくらい酷い言葉だらけだったと思う。
 だから、目を直接見られないようにっていうか。…正直怖いんだけどね。




 可笑しいでしょ?、と呟いて家に入ろうとする麗綺の腕を透は掴んだ。
不知火 麗綺
不知火 麗綺
な、なに?
不知火 透
不知火 透
後で眼鏡外した姿見せてもらうから。
不知火 麗綺
不知火 麗綺
は、はぁ?なんでよ。
不知火 透
不知火 透
うるさい。俺は全てを捧げてもらう契約してるから。
不知火 麗綺
不知火 麗綺
いつの話よ。



 軽い言い合いをしながら家の中に2人は入ってった。






 扉を閉めると、透が口を開いた。
不知火 透
不知火 透
あとで麗綺の部屋行くから。
不知火 麗綺
不知火 麗綺
は?年頃女子の部屋に入ろうとしてるの?
不知火 透
不知火 透
~~~~~っ!、分かった。俺のとこ来い。
不知火 麗綺
不知火 麗綺
はーい。


 どれだけ眼鏡をとった姿が見たいのか。麗綺には分からなかった。しかし、兄弟だ。
 いつかは見せる時が来てしまう。それなら、別にいっか。麗綺はそう思い、階段をあがった。



 部屋の扉を開けて、制服を脱ぎ、ハンガーにかける。そしてジャージを着た。
 このジャージは服に興味がない麗綺に慎介が着やすいからと言って買ってきたものだ。


不知火 麗綺
不知火 麗綺
割とゆったりしてるんだな。


 着心地のよいジャージ。今度から愛用しようと麗綺は決めた。
不知火 麗綺
不知火 麗綺
眼鏡…。


 人前で外すことなんて久しぶりだろう。
 まず、部屋で眼鏡を外した姿を見るのだってなかなかない。麗綺には珍しすぎることだった。


 外すには透の部屋に麗綺から行った方がいいのか。でも、前の住居では自分の部屋にいれていた。拒否したのか馬鹿みたいだった。
 

 麗綺は眼鏡を外した。伊達なのでそこまで変わりはなかったが1枚のレンズがないので見えやすかった。そして調子に乗った千歌子から貰った鏡をみた。黒縁がない、それだけで顔の違和感があった。

 何かが足りない。守りがない。無防備な気がする。
 麗綺の頭の中で不安がよぎる。もうつけよう、麗綺がそう思った時。
不知火 透
不知火 透
麗綺、


 扉が開いた。麗綺と透は目が合った。そして、直ぐに麗綺が逸らした。もう少し覚悟の時間が欲しかった。その一心だ。
不知火 透
不知火 透
逸らすなよ。
不知火 麗綺
不知火 麗綺
やめ、待って。

 麗綺は眼鏡をかけようとしたがその腕を透に掴まれた。麗綺は力が強くないので透に抵抗しても無駄だった。
 透が麗綺の眼鏡を奪い、少し頭を下げて麗綺の顔を見る。麗綺は全身が震えた。
 見られたくない、見たくない、でも見せておきたい、見せなきゃいけない。



 
不知火 透
不知火 透
麗綺、
不知火 麗綺
不知火 麗綺
やだ。
不知火 透
不知火 透
こっち見ろ、兄命令。
不知火 麗綺
不知火 麗綺
お前、兄なの?
不知火 透
不知火 透
俺、4月生まれ。
不知火 麗綺
不知火 麗綺
じゅ、10月。


 だろ?、と透は笑った。それに麗綺はムカついて透を睨んだ。それに嵌められたのかもしれない。2人の目が合い、離れなかった。
 透の手が麗綺の頬を撫でれば麗綺はビクッと身体が震えた。
不知火 透
不知火 透
割といいじゃん。今度から取れば?
不知火 麗綺
不知火 麗綺
いや。不安だから…返して。


 麗綺は透から眼鏡を奪った。そして直ぐにかけた。これ以上見られたら壊れてしまう。そう思ったからだ。

不知火 透
不知火 透
外してた方がいいのに。
不知火 麗綺
不知火 麗綺
それは私が決めること。


 もう、また同じ経験をしたくない。麗綺はその一心だった。
 しかし、麗綺はその時にも気がかりなことがあった。折角なら今聞いておこう。
不知火 麗綺
不知火 麗綺
透、
不知火 透
不知火 透
ん?
不知火 麗綺
不知火 麗綺
月永とはどんな話したの?
不知火 透
不知火 透
あっ、あぁ…。


 透には分からなかった。この事を言っていいのだろうか。麗綺を馬鹿にされた事でムキになったこと。恥ずかしいし、どこかむず痒い。
 兄弟、兄ということを自覚したらもっとだ。謎の責任感が働いた。

不知火 麗綺
不知火 麗綺
兄さん…?
不知火 透
不知火 透
あ、ごめん。
確か生徒会のことについて言われたかな。なんか…喧嘩売られちゃって。大変だったよ。
不知火 麗綺
不知火 麗綺
ほんと?なんか怪しいけど。
不知火 透
不知火 透
ここで嘘ついてどうするんだよ。



 じゃあ、また後でと言って透は麗綺の部屋から出た。麗綺は透の様子がおかしいことに気がついていた。でも、言えなかった。たかが兄弟、されど兄弟。この壁が壊せる自信がなかったからだ。












 体育祭まであと僅か、
 そして波乱がおこるまであと僅かだ。




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