クラスに騒ぎが起こる休み時間。
恋や有名人の話題などで盛り上がる生徒たち。思春期ならではの会話を楽しむ。
まさに青春だ。
そんな中5人ほど会話に参加しない人間がいた。そう、その人たちこそが
──────底辺カーストだ。
読書や勉強で忙しそうに見えるが実際はそうでもない。本が好きではない者もいるし勉強が得意でない者もいる。ただ、1人ぼっちというのの理由が欲しいのだ。
佐野麗綺もその一人であった。でも彼女には他の人間と違う部分があった。本や教科書に逃げずに今日も真っ直ぐ黒板を見つめる。
その姿はまさに勇者のように見えた。
しかし底辺カーストに気づかずに時は過ぎるもの。このスタイルを貫き始めてからはや、5年が経とうとしていた。
麗綺がこのスタイルを始めたのには訳があった。両親は幼い頃に離婚した。原因は母親の浮気だった。麗綺の母親は男遊びが激しかった。
それに温厚な父親も我慢の限界だったらしい。父親は家と少しのお金と麗綺を置いて出て行ってしまった。
しかし母親の遊び癖は全く治らなかった。聞こえてくる妖艶な声の意味も分からず、ただ怯えているだけだった。
小学四年生になった頃、その意味が分かった。男子の会話から聞いたもの。それが母親がやっていることであった。
それから麗綺は自分を閉ざし、自制をして今に至るのだ。青春の‘せ’の字もない麗綺の生活には麗綺自身、慣れていた。
チャイムが鳴り、一斉に飛び出す生徒に一歩遅れて麗綺は歩き出した。多くの生徒が体育館に向かう中、麗綺はある部屋に向かっていた。
向かった先は部室。麗綺は文芸部に所属していた。活動内容は特にないが麗綺はよくここで小説を書いたり、先輩と話したりしていた。
文芸部はあまり人気がなく麗綺と3年生の先輩のみであった。新入生を迎えずに今年度が始まってしまった。
でも、麗綺はこの空間が好きであった。自分を曝け出すことができる唯一無二の場所であったからだ。人気の少ない南館2階は誰にも邪魔されない文芸部ならではの場所であった。
3階は美術部と吹奏楽部が占領していたからだ。
麗綺はつい先日宝童に自分が書いた人気キャラクターの絵を見せて爆笑されたばかりであった。
麗綺の通う紅羽中学校では部活動への参加が義務付けられていた。例外としては校外活動を行なっている生徒は参加しなくてもよしとされていた。
帰宅部、というものの存在はなかったのだった。
麗綺はギュッと唇を噛み締めた。麗綺自身は底辺カーストになったことに後悔しかなかったのだ。仕方ないことだと分かっていても楽しそうにしている生徒を見れば羨ましくも思った。
しかしそこから抜け出す方法が全く分からなかったのだ。
宝童は文芸部=陰キャという概念が生徒にあることを知っていた。しかし宝童は明るいキャラづくりをすることで文芸部のカーストをあげようとこれまで頑張ってきたのだ。
しかし宝童自体のカーストは上がったものの文芸部自体は上がらなかった。
奏恵が思うように文芸部は暗いけど明るかった。部屋も暗いし他の生徒から見たイメージも暗いだろう。しかし3人の会話や空気は明るく楽しい部活だと全員が思っていたのだった。
宝童には恋人がいた。
それも割と美人な。リア充に恨みがある奏恵はそれが憎たらしくて仕方がなかったのだ。
しかし宝童自身のことは大切な友人なので仲は良いがそのような話になると急に鬼の心を出してくる。
文化祭は10月の終わりだった。そこは文化部の晴れ舞台。文芸部は特に何もしないが展示見学の際に集まってダラダラと話をしていたりしたのだ。
吹奏楽部は11月の終わり頃までコンクールがあるためやっているらしい。まさにブラック部活の象徴だった。
こんなに長くいて麗綺は初めて気づいた。
奏恵が腐女子だということに。それよりも驚いたのは宝童がそれを知っていたことだった。
麗綺は部室を飛び出して家へと向かった。
いつものやつ。
それは家に帰らなければいけない理由だった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。