麗綺が教室に戻った頃には、透の邪悪さなど消え去っていた。麗綺は人間の愚かさに改めて気がついた。こんなドス黒い人間も普段愛想良く振る舞っていれば、なんの疑いもなくいいところをとって行ってしまうのだから。
麗綺はしばらく睨みつけていた。すると透は気付いたようで話にけりをつけてからロッカーに荷物を取りに行く振りをして
と呟いた。麗綺は言い返すこともできずただその場に留まっていた。少し悔しかったのだ。
麗綺はあんなに千歌子を嫌っているのに責任を取れ、など第三者に言われては困る。
麗綺は自身の存在をゴミのように扱われているような気がした。
その時、麗綺はある1人の少女の視線に気がついた。その彼女の名前は成宮美華と言った。
美華は上辺カーストの中でも上の方で男子生徒に大人気だった。そして美華は透を狙っていた。透の人気は根強く告白は月一以上はあった。
しかし皆が恐れたのはこの女。美華は上辺カーストで可愛いという特性を持っている為それなりの権力はもっていた。虐めることなんて容易すぎたのだ。
美華に目をつけられるほど面倒なものはないと麗綺は考えた。しかし、影響が少ないのも分かっていた。
美華の普段の虐めはカーストを落とすことだった。麗綺はもともとカーストが下なのであまり意味がなかったのだ。つまり彼女が満足することができないので半永久的に行われることになるのを語っていたのだ。
その日は怯えながら教室での日課を終了させた。
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そしてやってきた麗綺の至福のひととき。
文芸部での活動時間がきた。麗綺は今日あった出来事が濃すぎていつもより早めに部室に向かった。話すことがたくさんあったからだ。
麗綺は唖然とした。部屋中に散らばる本、汚されたカーテン、そしてツンとくる匂い。
一体なにがあったのか、全く分からなかった。ずっと立ち尽くしていると後ろから奏恵が来た。
麗綺と奏恵は悩んでいた。何故人気のない文芸部室でこのような嫌がらせをしたのか。誰かを狙っていたのか、はたまた無差別なのか。
宝童も知らない様子だった。
誰がなんの目的かも分からない。しかし顧問に言いつけたとしても解決はしないだろう。
また被害があったら先生に言おうと3人で決めて片付けをすることにした。
麗綺はカーテンを取り外し終わったところで話し始めた。できるだけ暗い空気にはしないように笑おうとした。
麗綺は笑顔で振り向いたつもりだった。しかし奏恵と宝童の目には無理に笑っていることはお見通しだったのだ。奏恵と宝童は目を合わせお互いが同じ考えか確かめた。同じだった。
奏恵と宝童は麗綺が自分が思っているほど感情がないわけではないということに気づいたのだ。麗綺は感情の色彩が豊かでそれを押し殺して生活しているのだと。それを勿体なく思う2人に気づかず麗綺はカーテンを洗いに行った。
南館は水の汚さが目立っており、カーテンを洗っても意味があるのか分からなかった。しかし北館に行くのも面倒なので柔らかなホルンの音に包まれながらしっかりと洗った。
部室に帰ろうとした頃にはクラリネット吹きの人が階段を登っていた。そこには美華の姿もあった。
知らなかった事実に少々驚きながら部室に戻った。
空気が入れ替わり本も棚に戻って綺麗になった部室の息を吸い込んだ。
宝童と麗綺が協力して部室のカーテンをつければ眩しすぎた日光が遮られて暖かい光が部室を包み込んだ。
また上辺カーストに改めて呆れて部活動終了のチャイムが鳴り、校門へ向かった。
奏恵と宝童は自転車通学のため、途中で別れて校門へ向かおうとしたとき、麗綺は誰かに腕を引っ張られた。
透だった。こんな所を見られたらまた成宮に何かやられるかもしれない。適当な言い訳をつくって帰ろうとしたが腕は離されなかった。
Rimelはいわゆるチャット連絡アプリで老若男女が使っている人気アプリだった。
透は自転車置き場に向かって行った。
麗綺は誰かに見られていたら怖いので早足で自分の家に向かった。
誰かに睨まれているとも知らずに。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。