夕方の屋上は…
トントン視点
在校生が正門に向かう中、
俺たちは校舎に足を運んでいた。
やんわりと日差しが差し込む窓を横目に、階段を登る。
いつもなら走ってるメンバーも、
今日は流石に歩いてる。
というか完全にロボロの配慮なんよねw
だってボロボロなんやもんw
ガチャ…
夕日と海がよく見えるなぁ、ここは。
ロボロは…ぺいんと兄さんが消えた時、
月とか星を見ても何とも思わん、って言ってた。
今は…何か少しでも、
ちゃんと感じれるようになったん?
大丈夫そう…かなw
神社の前、
この部分だけ緑がたくさんある。
俺が代表で人形を取りに行った。
ザクザクと土の音を鳴らして…
ギイィ…と軋むドアを開けて…
人形を手に取った。
でも、何も起こらない。
空が紅くなったり…
重苦しい空気もない。
本当に人形は効力を失った。
それを物語っていた。
全員が黙りこくる。
まぁ、当たり前やな…。
くだらない話を並べて…校庭へ向かう。
今、満開の桜は…
裏手にある濃いピンク色の桜。
ソメイヨシノではないらしいな。
ただ桜を見に行くだけなのに…
何か特別に感じる。
なんなら卒業式で一度みているのに。
そしてどことなく楽しそうなみんな。
全員が笑顔を浮かべて…
コネシマとゾムに至っては走り回ってる。
ロボロは動きだそうにしてるけど、
絶対安静やしなw
夕日に照らされて、
花1輪1輪がきらきらと輝いて…
時よりひらひらと舞う花びらは、
最後まで綺麗なまま、儚く散っていた。
人形に語りかけるゾム。
返事は来ない、
届いてるかどうかもわかんない。
でも、ちゃんと繋がってると信じて…
サァアァ…と風が吹く。
花びらの雨が目の前に見える。
そして…『音』も一緒に…
確かに聞こえた聞きたかった声。
『俺たちを忘れないで』
なぜ桜を見たかったのか…。
何となくわかった気がする。
偶像の中にいる限り、
姿が見えなければ声も聞こえない。
現実世界を歩く俺らには、
届くことのない声なんや。
お互いを思う気持ちが生んだんやろな。
な?桃山先生、猿瀬先生?
ぺいんと兄さんとミミさんが、
シッマ達に近づく。
彼岸花は秋に咲く花。
今とは全く逆の季節に咲く花。
気温とか湿度が原因で、
咲いたわけではないやろ。
しかも…黄色と白色って…。
あぁ…わかった。
桜が見たいって言った理由…。
あとは…この2つの彼岸花…というか、
リコリスの花。
来週も来月も来年も…もしかしたら来世まで見守ってくれるんかもな。
満開な桜の木の下で…
2輪仲良く咲き誇る彼岸花。
変な情景やわ。
逆の季節の花が同時に咲いとるんやからな。
ゾムの笑い声から、
どんどん隣に笑いの波が広がって…
最後はみんなで笑った。
楽しかったことも、
悲しかった思い出も、
今まであったこと全部ひっくるめて…
最後はみんなで大笑いした。
偶像の中の2人も笑ってくれたかな。
探偵事務所の2人が先に門を出た。
その背中はやっぱりかっこええわ…。
それぞれが帰路につく。
俺は偶像を持ったままや。
…ハッピーエンドで終わったわけやない。
犠牲者は俺らの大切な人。
俺らは背負わないといけない。
これまでの運命をな。
それからこれからのことも。
今よりもずっと大変や。
でもそれでも、
ずっと生きてかないといけない。
今日この目に焼きつけた桜、
彼岸花のメッセージ。
それを忘れないように…
先生、これからも見ててください。
俺らは先生たちのもう1個の夢、
叶えて見せますよ。
『先生の夢を叶えること』
それが今の俺らの夢です。
ーーENDーー
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。