4時間目終了のチャイムがなって数十秒後、望まずして聞き慣れてしまった声と共に下っ端くんが走ってくる。
日に日に来るのが早くなってるのは気のせいだろうか…
フフ と笑う。
いや、笑い事じゃないんだけどなぁ
このやり取りももはや挨拶だ。
いつも通り受け流そうとしたが、この日の下っ端くんは普段とは違った。
そういった下っ端くんの手には個別包装されたクリームパンが握られていた
何が違うのだろう。袋にも「悪魔のクリームパン」と書いている
下っ端くんは、ノリツッコミを覚えた
私がなかなか正解を答えれず、しびれを切らした下っ端くんが大きな声でそう言う。
いや、賄賂って…お前…
どこ情報だそれ。色々とおかしい。
クリームパンを押し付けあう下っ端くんと私。
聞いてない!
…てか、こんなに押しあってたらクリームパンつぶれない?
あれ、これ私への賄賂だよね?
いや、受け取らないけどさ。
どちらもなかなか折れず、そろそろクリームパンの袋が破裂するんじゃないかと私が危惧していると、
やっと下っ端くんが引いてくれた
…そんなこんなで、下っ端くんの賄賂作戦は失敗に終わった。
«次の日»
今日も朝から下っ端くんに押しかけられ、それ以外は何事もなく平穏に一限、二限と過ごしていた。
次は移動教室なので、私は廊下を歩いていた。
あーめんどくさい。
なんでいちいち移動しないといけないんだろう
そんなことを考えながら、廊下から窓の外を眺める。
いい天気だなぁ…こんなときに授業というのも、もったいない気もするな─────
…大体何かは分かるがとりあえず声の下方向へ目線を移そうとすると、
そう言いながら私の横スレスレ…いや、若干ぶつかっていたが、数人の女子生徒が前へ走っていた。
もう少し強かったら転んでいたぞ…
そしてやっぱり。
ていうか、え?今登校?もう三限目だよ?
前を見ると、たいそうな人だかりが出来ていた。多分あそこにいるんだろう。
通行の邪魔だと思わないのかな…
このまま無理やり突っ切るか、遠回りして下の階に降りていくか。
ふと立ち止まり、考える。
…めんどくさいけど降りた方が得策かな
早々に決断を下し、歩いてきた道を引き返し階段を降りる。
そしてそのまま教室に向かおうとしたら…
先程と似たような歓声が聞こえる。思わず足を止める。
あれ…ここ下の階だよね。
思わず周りを確認する。
間違いなく、ここは2階で、目の前には人だかりがあった
なんで分裂してるんだ。
最悪だ…と思いながらも、上の階の人だかりよりはマシなので、仕方なくここを通ることにした。
一定の速度を保って歩き、人だかりに入る。
どうにか向こう側にたどり着こうとしていた時、人だかりの中心からそんなつぶやきが聞こえた。
興味本位で、チラ、とそちらの方を見る。
人の頭の間から見えた、明らかに周りと違う顔立ちをした1人の男は、困ったように笑っていた。
なるほど確かに容姿は整っている。
だがそれがどうした。どのみち通行の邪魔になっていることに変わりはない。
少し睨んで、心の中でそんなことを思いながらその男の横を通り過ぎようとした時。
これだけ間に人がいるのに、偶然視線があった。
え。
瞬間、私よりその男に近い女子が騒ぎ出す。
…気の所為だな。タイミング良すぎて心の声が声に出してしまったのかと思った。
視線が合うだけでそんな騒ぐとか…訳がわからない。
ようやく人だかりから脱出し向こう側にたどり着いた私は、そのまま移動教室へ向かった。
その男がそう言いながら、不思議そうに私の方を見ていることなんて知らずに。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!