ここには私しかいなかったはず!?
そこにかけられた声の主へ振り返ると、そこにいたのは…
REDの幹部が1人、高嶺椿。
なぜまだ屋上にいたのか、そしてなぜ私は気づかなかったのか。確かに私はそこにいた幹部の全員が立ち去るのを見送った。いや、それよりも、今の笑い声を聞こえた!?という疑問や恥ずかしさが私を支配する。
しかし私は冷静を取り戻し、そんなことはどうでもいいことに気づく。
そう、聞かれてしまったのだ。あの笑い声を。
私の素を。
彼の口ぶりからすれば全部聞かれたのだろう。
かすかな希望を胸に、私の中の最高の口説き文句に最高の笑みを浮かべる。
私のかすかな希望はニコリと打ち砕かれる
嫌味なヤツめ…
それよりも、前…?前って…
あ、二校舎屋上の時の?
確かにあの時私は椿さんと言った。だって名前知らなかったし、そう言うしかなかったから。
まさか覚えられているなんて…
こうなったら1人で演技しても可笑しいだけだ。
私は一定に吊り上げていた口角を戻した。
一応敬語は使う。
冷静に対応しろ。
ワンチャンいける。
ニコリと笑うが、また貼り付けたような笑顔。何を考えているか読めない。
いったいどのくらいバレたのか探ることも出来ない。
ならばとりあえずここから離れようとペントハウスのドアまで歩きドアノブを掴もうとするが、その前に立ち塞がれる。
私が構う。
高嶺椿はニヤリと笑う。
こいつっ…ハメやがった…!
さっき自分で名乗ったじゃないかっ!下っ端くんも私のことを露草って呼んでるし!
しまった…とぼければ良かった。敬語も取れた。
せめてもの悪あがき。
イラァ…!
それは私の真似か?高い声を出して気色悪い。私の捨て身の渾身の演技の真似か!?
正直かなりイラッとしたがここですっとぼけなければ間違いなく事は悪い方向へ転がると直感したわたしはしらを切る
…こいつ下っ端くんと同じで自分の都合の悪いこと聞こえないタイプだな。
何言ってんだこいつ!!
…ふー…ふー…落ち着け。落ち着け自分。
…あ、わかってきた。
つまりこいつは、姫制度が気に入らないと。
でも問題ごとにしたくないから、REDに興味のない私を入れて形式上だけの姫にしたいと。
イコール、私に全て責任をかぶれと。
なるほどなるほど。
それは…
調子乗るにも程がある。
ぷちん、と何かがキレる音がして我慢の限界に達した私は1歩、高嶺椿に近づくと睨みあげながらそう言った。
そんな自分勝手な都合で他人を振り回すな。
お前らは大人しくあの姫とよろしくしておけばいいんだよ!!と続けなかっただけマシだと思って欲しい。
私の豹変ぶりに思わず仰け反った高嶺椿の横を怒りのままに通り抜け、私は屋上を後にした。
バタン!と大きな音を立て、ドアが閉まる。
残されたのは今度こそ、高嶺椿ただ1人だった。
彼は多少なりともショックを受けたが、それもつかの間。
と言い、口角を上げた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!