そんなことをちっとも思っていなさそうな笑顔でそういう高嶺 椿。
笑顔でいれば許してもらえるとか思っているんじゃないだろうか。
自分が無理やり脅して連れてきたくせに。
チリほども思ってないだろう。
私の気持ちを察したらしい高嶺 椿にそう言われて、ぐっと言葉につまる。
確かに、ああいう風に言われたから露見してしまったのだ。
そこで私は高嶺 椿の策略にまんまと嵌められたことに気づいた。
いきなり辛辣な言葉が来た。
てっきり気づいていないものばかりだと思っていたが、REDのメンバー内だけでなく幹部でも気づいているひとは気づいているんだな。
はぁ、と息を吐く姿はまるで本当に姫を厄介に思っているようだった。
出来るだけ関わらないようにはしてたんだけどね、と髪を掻きむしりながらそう続ける。
そっか、あの時の違和感はやはり当たっていたんだ。
どんだけ自意識過剰なんだこいつ。
確かにほとんどの女子は姿を見るだけでキャーキャー騒ぎ、騒がない子も憧れのような視線を送っているだろうが、それにしてもすごい自信だ。
いや、周りの環境がこいつをこんなやつにしてしまったんだろう。
そう考えれば可哀想に…
前言撤回。こいつは根っからのクズだ。
自分の顔がたまたま良かったからってそんなにハッキリと言うことではないだろう。
このままなら私はただの一般生徒。だが姫になった途端、他のグループから狙われる可能性だって出てくるだろう。
REDが守ってくれると言ったって、姫にならなければ元々そんな危険な目にあうことだってないはずなのだ。
忘れてはならない。こいつらは不良の中でも野蛮な、ギャングなのだ。
彼、下っ端くんのことだろう。
むしろ幹部に会っただけマシだと思って欲しい。
少しの沈黙後、最後にそれだけ言って、ニヤリと悪い笑みを浮かべると、高嶺 椿はそこから去った。
言葉の意味を理解するのは、そのあとすぐのことだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。