やっと声をかけることが出来た。
だってずっと見ていたから。
本当にこの時を心待ちにしていた。
貴方を毎日見てる。
毎朝、同じ電車に乗っていることも知ってるよ。
あと、私をずっと見てることもね。
それに気付かない振りをしているだけ。
貴方が毎朝の電車で私を見つめているけど、貴方はそれだけで満足しているの?
そう、気付かないふりをしているの。
だって私は貴方が勤務している会社、家族、交友関係、趣味、住んでいるマンションだって、部屋番号だって知ってる。全部知ってるから。
そんな私のことを、貴方が知ると引いてしまうでしょ。
だからいつも貴方に見つめられているだけで、声をかけられなかったのよ。
でも、やっとこの時が来た。
心待ちにしていた。
「あの!」
ずっと貴方だけを見つめている。ずっとずっとずっと。
私は笑った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。