第25話

昔、凄い昔 side子狐
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2020/08/21 09:02
昔、凄い昔…私のパパとママはDEATH GAMEという怖いゲームに勝ったって言ってた。
ある時、私はママに聞いた。
「ママはどうしてパパと結婚したの?」
ママは突然の質問に驚きながらも…


「う〜ん…優しくてかっこいいから?」


と照れ臭そうに笑って答えてくれた。
ママは顔に大きな火傷を負っていた。
それはいつも痛々しかったけど、ママ曰くその火傷こそが誇りだという。
ママは紅い月の日には絶対に家にいなかった。
そのことをパパに聞くと「大切な用事がある」とだけ言われた。
紅い月のある日、私は家を出たママの後を追った。
ローブを着たママは想像以上の速さで走っていてママを追いかけ、気付けば桜華町にやって来ていた。
ママが向かったのは桜華大社。
紅い月の日には日本の守り神である狐様を祝い、大きなお祭りが開催されている。
だから、今日はお祭りの日で人が多かった。
人が多いせいで私はママを見失う。
「見失っちゃった…どうしよう…。」
辺りを見るも人、人、人…ママはいない。
何かしら行動を起こさないと、ママが更に遠くに行っちゃうかもしれない。
そう走り回っていると、前を見ていなくて人にぶつかってしまう。
「あっ…ご、ごめんなさい…!」
「あれ、君ってX殿の娘さん?お父さんは?」
「え、えっと…ママ追いかけて、一人でここまで来て迷子になっちゃって…」
黒髪のママと同年代くらいのお兄さん。
知らない人に話しかけられても話すな、って言われてるけど何故かママの名前を出したこの人には話せた。
「あ〜…そっかそっか。これからX殿は儀式を行うんだけど、折角だしこっそり見る?」
「儀式?」
「X殿の仕事。」
「……見たい!」
知らない人について行くな。
それもよくパパやママに教えられたっけ。
お兄さんについて行き大社の本堂に着くと、今度は綺麗な着物を着たお姉さんがいた。
「……ハク、説明をお願い出来ますか?その子、どう見てもあの方の娘様にしか見えないのですが。」


「気になって後追って迷子になったらしい。そろそろ隠すのも無理があるし、頃合かなって。責任は俺が取るしいいだろ?」


「まぁ、確かにそうですね。取り敢えず見とくのでハクは着替えてきてください。儀式ですから。」


「分かった分かった。じゃ、この人…リクと一緒に始まるまで待ってて。」
そう私の背中に言って、私が振り返った時にはもうハクさん?の姿はそこに無かった。


ハクさんの自由な行動か私がいることか、何か分からないことに溜息をつくリクさんに私は恐る恐る…
「あの…私のママって何をしているんですか?」
…と聞いていた。
「言葉で説明するのは難しいですが、貴女のお母様はとても立派な方ですよ。」
少ししてからみんなの声が近くなって来た時、リクさんが時計を確認するなり「行きましょう。」と立ち上がり、一緒に本堂を出た。
紅い月が綺麗に輝く夜。
普段は立ち入り禁止の道へとみんなが歩く。
リクさんとはぐれないように手を繋いで歩き、辿り着いたのは大きな御神木。
一定の距離より御神木に近付けないようにテープで遮られていて、テープの外側には沢山の人々が立っていた。
桜華狐祭りの存在は私も知っていた。
でも、実際に来たことは1度もない。
別に親に禁止されたわけじゃないけど、何故か行ったら駄目なような気がして行けなかった。
「リク、準備出来たって。」
「わっ!」
いつの間にか後ろに立っていたハクさんがリクさんにそう言うと、リクさんは「了解」と言った。
「それでは、始めましょう。」
お香を手に持つリクさん。
小さな球体を持つハクさん。
2人が手に持つものを空に向かって投げる。
すると、投げてから数秒後に白い何かが木々の間から見える空を横切った。
御神木の近くにいる人々から歓声が上がる。
声のする方へと視線を移すと、そこには真っ白な髪を持つ狐が御神木の前に膝を着き、着地していた。
やがて立ち上がると、体格から男性と見られる狐が歌い始めて、女性と見られる狐が舞い始める。
それは優雅で綺麗なものだった。
「もしかして、私のママ…」
「X殿は日本を守る狐様。XX殿と人々の傷を癒してある時は世界へと旅をする。」
「日本の復興が早いのもあの方々のおかげです。」
「でも、ママはあんな髪じゃ…」
「世の中は不思議に満ちてますから。」
リクさんが微笑む。
ママ、いつものんびりしている印象があったけど、こんなに凄い人だったんだ…


いつか私も狐様になれるならこんな、ママみたいな凄い狐様になれないかな…
儀式が終わり、リクさん達と本堂に戻るとやがて狐様達が戻って来た。
「X殿、そろそろ頃合っすよ。」


「あら〜…ついにバレる日が来ちゃいましたか。」


「追いかけて来たらしいですよ。」


「危ないから巻き込みたくないんだけどなぁ…」
狐の面をズラし、顔の上半分を隠していた布を取るなり、白い髪と紅い瞳持つママが少し笑いながら私の頭を撫でる。
「あのね?これはかなり危険な仕事なんだ。自分のことしか考えられない人間は理由をつけて僕と彼を捕まえようとする。」
私の手を握り、もう1人の狐様を見るママ。
「ねぇ、私もママみたいな狐様になれる?」


「う〜ん…可愛い娘に狐様をさせたくないな。」


「ママが寿命で死んじゃったら誰がするの?」
私の言葉にママは笑うだけだった。
「僕のことなら大丈夫だよ。ずっと日本を守る狐様なんだから。ねぇ?XX。」


「……俺はお前の気が済むまで付き合うさ。何十年でも何百年でも。」


「何百年も?」


「そう、何百年。僕とXXはもう悲しむ人を生まないために人間を辞めてでも生き続ける。」
そう告げたママは真剣な顔をしていた。
人はそんなに生きることが出来るの?
人間を辞めるってどういうこと?
沢山の疑問が浮かび、私が思ったのは1つ。
「……パパはどうなるの?」
さっきまで真剣そうな顔をしていたママが今度は少し悲しそうな顔をする。
「人は…いつかは死んじゃうんだ。例え、心から大好きな人でも、可愛い子でも。永遠に生き続けるなんて人間がするようなことじゃない。」


「俺もXもその覚悟はあるわけだ。君に出来るか?仲のいい知り合いも家族も全て死んだ世界で世界の為だけに働き続けること。そこのリクやハクだって俺達より先に死ぬ。その次の代が死ぬ時も俺達は健康で元気。地球が滅亡するまで永遠に続く。」


「だね…。それでも、狐様をしたいの?」


狐様ともう1人の狐様であるママが私を見る。
パパや友達が死んで、それでも若く生き続ける。
確かにすることが人とは呼べない。


ママとこの狐様にはその覚悟が本当にあるんだ…


「……やる。それでも狐様になりたい。」


返事に驚いたママと私の言ったことがおかしいのか笑った狐様。


「凄い良い娘じゃん、X。その子、お前の身に何かあった時の為の子狐にすればいい。」


「よく僕に似た子だよ…。止められない。」


呆れ気味だけど嬉しいのか、ママはまた笑った。


「分かった。でも、XXの言う通りに基本は僕が狐様をする。もし僕に何かあったら僕を継いで狐様をやってね。そして、子孫を守るの、いい?」


「うん!」


「さーて…ハク、たまにでいいからこの子に色々と教えてあげてもらっていいかな?僕は僕で忙しいからさ。あと家まで送っといて。」


「了解っす!」
「え、ママは?」


「僕はXXと屋台で遊んだら帰るよ。紅い月の度にする恒例行事だから。じゃ、頼んだ。」
そう言うと、ママは狐様と奥へ消えた。
ハクさんが私を背負い窓の前に立つと、リクさんが「また来てね」と手を振ってくれ振り返す。


「落ちないように捕まっててな。」


「落ちる?」


不思議に思ったことを口にした刹那、風が顔に当たるのを感じた。
横の景色が凄いスピード後ろへと去っていく。


「お、お兄さん何者なの!?」


「ん〜…忍者?」




















空へと消えていくハクとXの娘をリクは見ていた。


「彼女は本当に狐様の素質のある子ですね…」


あの方の家からここまで電車で1から2時間と徒歩30分はかかる。
あの方が走って来たなら推定40分くらいでしょう。
そして、娘様があの方を見失ったのがこの桜華大社ならそこまではちゃんとついてきた…


「今後が楽しみです…」


とんでもない狐様…いや、子狐様の誕生です。

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