第31話

祈り
241
2020/06/24 12:06
伊島 涼
…ねぇ、蒼翔。面白いこと教えてあげようか?
霧夜 蒼翔
面白いこと?
伊島 涼
そう、面白いこと。
優悠をベンチに寝かせて家に向かっていると、不意にずっとついてきていたスズがそう口を開いた。
霧夜 蒼翔
てか、何でずっとついてくるんだよ。もう俺、自分の家に着くんだけど…
伊島 涼
私の家、野坂だからさ。今日は蒼翔の家のベランダにでもお邪魔して寝ようかなって思って。大丈夫、トイレとかは近くのコンビニとか行く。
霧夜 蒼翔
……リビングで寝ろ。別にトイレも使っていいから。
スズなりに迷惑をかけないよう考えて言ったみたいだけど、こっちからすると嫌でしょうがない。
命の恩人を寒い風の吹くベランダに寝させた上にトイレは何処かに借りに行けとか無理な話だ。


……それに親がいないから1人は寂しい。
伊島 涼
ありがと!で、聞きたい聞きたい?
霧夜 蒼翔
まぁ…
伊島 涼
さっき野坂にいた時、ちょうどいた紅玻から新しい情報を貰ってきた。今回のGMは桜華町にいる。
思わず立ち止まってスズを二度見する。
スズはスマホを触りながら喋っていたからか俺にぶつかるまで足を止めなかった。
伊島 涼
うわっ!と、止まるなら言ってよ…
霧夜 蒼翔
歩きスマホが問題だけどな…んなことより桜華にいるってどういうことだよ。
伊島 涼
今、メールの発信元を探して貰ってる。完全な個人までの特定はまだ無理っぽいけど、範囲は出来たらしくてさ、それがここ桜華町。紅玻は機械関係にかなり強いから、GMもかなりの強者だよ。
霧夜 蒼翔
紅玻が……考えたくないけど、桜華町なら俺達の中にGMがいる可能性も少なからずあるってことか…
伊島 涼
そーゆーこと。セキリュティが強過ぎて私でもハッキングが難しい。危うく、私が消されるところだったし。
霧夜 蒼翔
……難しい話、だな…
伊島 涼
何かそれも今更感あるよ…
確かに今更だとは思う。
でも、非日常的なことが2度も起きるとこっちとしても色々と気を病みそうになってくる。
霧夜 蒼翔
…アイツらは無事に逃げたか?
伊島 涼
うん。
その返事を聞くと俺は再び歩き始める。
そして、約十分程歩いたところで目的地に着き、俺は鍵を使ってドアを開けた。
伊島 涼
お邪魔しま〜す。
霧夜 蒼翔
ん。
人気のない家はいつも通り。

忘れもしない7歳の時。
目の前で両親を殺された。顔は見たのに今はもうその憎い顔さえ思い出せない。

そこからはばーちゃんがずっと育ててくれた。
でも、ばーちゃんは一昨年寿命で死んでしまった。
親戚にも引き取って貰えなかった俺は両親が残してくれたこの家に住み続ける、一人で。
伊島 涼
相変わらず一人には勿体無い家だなぁ。さっさと結婚しちゃえば?
霧夜 蒼翔
変なこと言うな。大好きだったアイツは死んだんだ。他に誰もいねぇよ。
伊島 涼
一途なところも変わらないねぇ…
からかうように笑ったスズは部屋の中をうろちょろとしていたが、俺が作った前の学校のやつらの仏壇的な物を見つけると前に座り手を合わせた。
伊島 涼
大丈夫だよ、絶対に地獄は終わる…
祈るように呟くスズ。
そっと目を開いた次の瞬間、スズは確かに言った。
伊島 涼
何年かかろうとも我が身を滅ぼそうともこの私が…必ず終わらしてみせる。

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