優悠をベンチに寝かせて家に向かっていると、不意にずっとついてきていたスズがそう口を開いた。
スズなりに迷惑をかけないよう考えて言ったみたいだけど、こっちからすると嫌でしょうがない。
命の恩人を寒い風の吹くベランダに寝させた上にトイレは何処かに借りに行けとか無理な話だ。
……それに親がいないから1人は寂しい。
思わず立ち止まってスズを二度見する。
スズはスマホを触りながら喋っていたからか俺にぶつかるまで足を止めなかった。
確かに今更だとは思う。
でも、非日常的なことが2度も起きるとこっちとしても色々と気を病みそうになってくる。
その返事を聞くと俺は再び歩き始める。
そして、約十分程歩いたところで目的地に着き、俺は鍵を使ってドアを開けた。
人気のない家はいつも通り。
忘れもしない7歳の時。
目の前で両親を殺された。顔は見たのに今はもうその憎い顔さえ思い出せない。
そこからはばーちゃんがずっと育ててくれた。
でも、ばーちゃんは一昨年寿命で死んでしまった。
親戚にも引き取って貰えなかった俺は両親が残してくれたこの家に住み続ける、一人で。
からかうように笑ったスズは部屋の中をうろちょろとしていたが、俺が作った前の学校のやつらの仏壇的な物を見つけると前に座り手を合わせた。
祈るように呟くスズ。
そっと目を開いた次の瞬間、スズは確かに言った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!