第27話

2万人の人質④
病院に着くと俺はすぐさま車を降り受付に向かった。処置室に寝かせておいて欲しいと言い残し真宙に薬を渡す。

あの男はホテルから出た。こいつさえ仕留めてしまえば…。だがと踏み止まる。何故あいつは刑務所を出れた? それとも釈放されたのか? そして今度はホテルで爆弾騒ぎ、こいつは死にたいだけの男じゃないのか?

俺は病院の外へと出る。

「容態はどうでしたか」
「ああ、風邪だった。酷い風邪のようで今点滴をしている」
「そうですか、ご無事で何よりです」

俺とこの男の間に沈黙が流れる。
こいつは恐らく拳銃か何かを持っている、ナイフで対抗出来ればいいが病院前で騒ぎを起こす訳には行かない。それに真宙がいる。

「何か言いたそうな顔ですね、神木原さん?」
「…………何が言いたい」
「何故私が…いえ、俺がここに居るのかって顔をしている」
「……ふうん、そんな顔してるかね」

俺は空を見上げながら一服する。真宙と出会ってからずっと吸ってなかった代物だ。

「……俺にも一つくれないか?」
「……ああ、ほらよ」

俺は煙草を手渡し火を貸す。男は深く煙を吸い込み、そしてゆっくり吐き出した。

「…脅されているんだ、団長に」
「ッ…団長?」
「俺は…この外の世界から内の世界へ入り込んだ。迷い込んだと言ってもいい。それを一等区のあのお方が助けてくれた…」
「…あのお方? って、誰だ」

俺の中にいる団長は、デッドしか居ない。その他の団長なんて聞いたことが……。

「バラベルト団長、右腕はデッド。あんたは何も知らないのさ」
「右腕が、デッドだと?! ッ…あ、いや…」
「いいさ。俺はもう疲れたんだ…包み隠さず話してやる、俺の最期の悪あがきだ…」

そう言って男は語り始めた…。
「バラベルト団長、一等区の人間にして四等区での殺人に手を貸している悪党なんだ。そのお方が取り纏めているのが斬切竜団、一等区は 斬 切 竜 団 ドラゴンサバイバーと呼ばれている」
「ドラゴンサバイバー…」
「表上は悪の組織を取り締まる警察のような集団、だが裏を返せば悪とは四等区の事、そこで日頃の鬱憤を晴らすだけの悪党の集まり。アンタもよく知ってるだろう、元デッドの幹部さんよ」

バラベルト団長、俺はずっとデッドが斬切竜団の親分だと信じて疑わなかった。それが今になって新しい名前が出てくるとは…。

「ちなみにバラベルト団長には子供がいる、6歳にして一等区の大学受験に合格、一方で長男の方は等下りで四等区へ行ったらしいな?」
「………ッまさか、バラベルト団長ってのは…」
「…ふぅー……」

男は煙草の煙を吐き出しそして病院を見て言った。

「そうさ、アンタが今連れている子供の実の親だよ」
「…ッ……なんて事だ…」
「バラベルト団長は本物の悪党だ、表向きは善良な市民統率力もあるし経済力もある。だからこそ市民も従い、悪党も従う。まるでジキルとハイドだ。あんたは今大切にしている子供の親に人殺しを命じられて居たんだよ」
「……………」
「何も言えないか、そりゃそうだな。そして俺が釈放されたのもあのお方が《外》へ出て俺を助けてくれたからだ。遊園地の爆破予告もホテルの爆破も全てあのバラベルト団長に命じられたこと、目的はただ1つ…真宙を殺せ」
「なッ……」

俺はその真実にただただ言葉を失うことしか出来なかった…。