第23話

稽古②
「それじゃ、よろしく頼むぞ。お前たち」
「任せてください。精一杯相手を努めさせて頂きます」

かつての仲間達にマシューの稽古相手を頼み、俺は部屋へと戻る。マシューにはホテルの中であれば一人で彷徨いてもいいと言ってあった。但しスイートルーム前の廊下とその下79階までだ。そこで様々な方法で仲間達が攻撃を仕掛ける。それにマシューが対処し、あいつらがそれぞれ評価点を付けていくという方式だ。

「それじゃ行ってこい、3人だぞ。見事倒してアイツらをここまで連れてくるんだな」
「うん! 頑張ってくるね!」

そう言ってマシューが部屋を出る。俺は椅子に凭れ掛かり時間を潰す。

今まで色々あった事がふと脳裏を過る。
真宙と出会った時、あいつは最初に俺を見て怯えていた。格好が恰好なだけに驚いていたのもあるし、俺は元々が── 殺人鬼 ──だ。

外の世界から内の世界へ入り込み、斬切竜団の一員として認められそのまま幹部へ上り詰めた。それまで幹部というものはなく、俺が来るまではユティが強かったらしい。
それでも俺の強さには勝てなかった訳だが…。

斬切竜団の団長デッドの元、四等区で暴れ回った。どれだけの人間を殺しても罪に問われない。それが俺にとっては天国だった。
外の世界で俺は刑を全うし外に出ていた。死刑という制度が取り払われ終身刑が残されていたが、俺は終身刑にはならなかった。
受刑歴10年だ。俺が殺したのは動物と警察が取り締まらない闇営業の悪党共、そしてイカガワシイ店のぼったくり店店長なんかを殺したんだ。世間で騒がれた、ヒーローが現れたと。だが英雄気取りだと批判もされ、俺は功績を称えられながらも刑に伏す事となった訳だ。

そしてそれは、親父もそうだった。
悪いヤツを殺す事を生業としていた俺の家は学校にすら行くことは出来なかった。
だから独学で勉強した。算数も国語も数学も、小さい頃から親父とお袋に勉強を教えこまれた。厳しかったが不幸だとは思わなかった。
親父は教えてくれたんだ。

『勉強は人のためにやるのでは無いんだ龍也、勉強って言うものは自分が如何に幸せになるために如何に賢く生きるために、その道を探すために勉強はやる物なんだよ』

俺はその教えを今でも誇りに思っている。

そして親父が死ぬ前、俺にくれたメールがあった。
『龍也! 人の道は長く険しく辛い事も悲しい事も沢山あるだろう。その時は呼びなさい、そうすれば俺はお前を助けに駆けつけてやろう』

今の俺にはこのメールが心の支えとなっている。今でもどこかで親父が見てくれている気がしているんだ…。
── ピンポーン
「龍也さまぁ〜」

インターホンの音でうたた寝していた俺は起き上がりドアを開ける。
そこには参ったというように疲れ果てている仲間とマシューが居た。

「リュウ! 僕この人達に勝ったよ! ついでに稽古も付けてもらってた!」
「なるほど、それで疲れてんのか。ここのオーナーには話を付けてある、お疲れさん。戻って休め」
「はい、彼強いですねぇ、参りました」

感服というように3人はマシューに頭を下げて去って行った。

「どうやら上手く行ったみたいだな?」
「うん! これでリュウの役に少しは立てるかな」
「多分な。だが危ない事はしてくれるなよ」
「大丈夫だよ。それより眠いや…」

俺が座った膝の上に登るとマシューはそのまま眠りに落ちてしまった。そんなある意味我が子ともいえるマシューを抱き締める。

「おやすみ、いい夢を…」